悠希はあたしの両手首を掴み、微動だにせず、離さない。


もがけばもがくなりきつくしめられ、手首に痛烈痛みが走る。


折れる。


ほっといたら間違いなく折られる。


「離して…離せ!」


「離さない!行くって言うまで絶対離さない!」


一方的に攻められ、一方的にやられてるのになぜか心が痛む。


悠希の必死さが離さずに掴まれた手首から伝わってきて、苦しくて苦しくて仕方ない。


「妹がなんなんだよ!あたしはおかしくなんかない!!」


頭を横に振り、そのまま駄々をこね、あたしは泣きじゃくった。


「妹も自律神経がおかしくて精神科いってんだ!似てんだよ!お前の目が!」


今まで悠希の口から妹の話なんて一度もでなくて聞いてなかった。


悠希には。


まだ闇があったんだ…


悠希の闇にさえ気付いてやれなかった。


自分の事ばかり守ろうとしたなんて、あたしはなんて情けない奴なんだ…


「あぁぁっっ!!」


築き上げたプライド。


意地。


作り上げた「歩」という人間。


その全てが崩れた瞬間だった。


“気付かれまい”“大丈夫、大丈夫”自分に言い聞かせてきた洗脳の言葉達。


こんなにあっさり見抜かれたなんて、自分にとっては恥。


それなのになぜだろうか。


悠希が一番に気付いてくれたってわかったら、安心に近い心地よさで自分へのプレッシャーが涙で流れ落ちた。


本当は救って欲しかったのかもしれない。


“歩から目を逸らさずにいて。気付いて!”って。


誰かじゃない。


悠希に。


お前に救って欲しかったんだよ…


「俺、妹の内情は言いたくなかったんだ。でももうお前見てらんなくて…俺まで苦しいんだよ」


「歩、おかしくなんか…」


「近いうち病院行こう。俺がいるから大丈夫。頑張りすぎんなっていつも言ってるだろ」