でもやっぱり悠希は悠希だったんだ。


あたしの変化を見過ごすわけがない。


全て隠し通せてると思ってたの。


悠希は何も気付いてないんだって思ってのに。


悠希には、彼には勝てやしない…




その日はなんら変わりない土曜日で、いつも通り二人はあたしの部屋のテーブル付近に座り、のんびりテレビを見ていた。


タバコの煙が緩くふんわり舞うこの部屋は、二人の城と言っても過言ではない。


悠希が隣に居るのは当たり前の光景で、整理された日用品も板につき、まるで定位置って顔をしてる。


「悠希ぃ~」


あたしは溜まり溜まっていた会えない寂しさを発散しようと悠希に抱きつき、甘え倒そうと試みる。


すると悠希はあたしの肩を掴み、体を押し戻した。


「悠希?」


その時の悠希の顔は真剣そのもので、否応なしに時が止まった。


「歩に話あんだよ」


あまりにも神妙な顔付きで話す悠希。


威圧感すらある。


何?


なんか嫌な予感がしてしまう。


「別れ話とか?」


あたしはむっとした表情で肩から手を払い、喧嘩腰な体勢を整える。


「馬鹿ちげぇ~よ」


悠希はちょっとはにかんだ笑顔の反面、どこか重た気な空気を纏いこっちを見ている。


重圧感におされ何も言い返す気になれず、あたしが黙り込んでいると、悠希はおもむろに話し出した。


「歩。お前すげぇ細いじゃん。折そうなくらいっていうかさ…俺細いのは好きだけど…」


「好きだけど何?」


「お前は目がおかしい」


「目?」


「人を人じゃなく見てる目なんだよ」


「えっ?ちょっと待って。それってあたしを馬鹿にしてんの?」


「違う!真面目に聞けよ!」


「いや、意味わかんないし」


「とにかく精神科か心療内科に行こう。ってか無理矢理でも連れて行くからな!」


悠希が放つ言葉の意味が本気で理解出来ない。


体調は確かに優れないが自分の頭に“精神科・心療内科”という文字はなく、馬鹿にされた感覚に捉えてしまう。


「はぁ?何がおかしいの?体が疲れてるだけ!内科周りまくったし。ってかあたしはおかしくなんかない」


こいつガチでムカつく。
弱さなんて見せない、絶対見せない!


そう思った時、気付けば怒りが込み上げ、あたしはテーブルの上に置かれたグラスを手に取り、悠希目掛け投げつけ暴れだしていた。


ガシャン!!と音が耳に届き、飛び散ったグラスの破片が四方八方床一面に舞い散る。


「おかしくないもん!」


「お前の為なんだ!!」


「おかしくない!おかしくない!」


「聞けよ!俺の妹と同じ目してんだよ!俺の妹とよ!」