右腕に切り刻まれた10センチはある生々しい傷痕。


左右の骨盤を削り、右腕に移植された骨。


17歳の夏。


19歳の夏。


ガンの疑いで検査手術をはめ、二年をまたぎ四回の手術をあたしは繰り返した。


「もしガンなら右腕を切り落とします」と医者に告げられ、母はショックのあまり痩せてった夏。


骨の細胞を詳しく調べたらガンからは免れたが、珍しい病気で診察出来る医者は県内に三人しかいないと後々知った。


病名:線維性骨異形成(せんいせいこついけいせい)


命は救われ生きてはいる。


だが、大学病院だったせいかあたしが麻酔で眠る間。


たくさんの医者が手術室に出入りし、研究材料並みに見せ物になっていたと母から聞いた。


麻酔で吐き気に襲われ目覚めた手術後。


わざわざたくさんの医者を引き連れ医院長まで出向き、ベッドに横たわるあたしに話をかけてきた。


記憶は薄らでボヤけてる。


そんな中、あたしは酸素マスクを口にしたまま痺れて動けない体を揺らし


「ジジィ死ねや!」「うぜぇ!消えろ!」と叫んだらしい。


何かを憎むかのように…


この腕の傷は心の傷でもあると言って過言ではない。


医者に死ぬかもしれないと告げられた娘の病室に父は一度も現れていない。


家族なんて


血なんて


どうでもいいってあたしは十代で知ったんだ…


「五体満足は外せないが、子供に寂しい思いはさせちゃダメなんだよ!悠希ダメだかんね!」


「歩?」


「あたしみたいな子になっちゃダメ!」


「おい、どうした?」


「はっ。あっ、なんでもない…五体満足なら何でもいいの」


腕の傷に触れられ抱えていた忌まわしい過去を思い出し、冷静さを一瞬見失っていた。


体の傷は生きる為の傷だから仕方ないが、心の深い傷は誰にも癒せやしない。


我にかえったあたしは話を濁し、元の話題に無理矢理戻した。