「いや、マジで」


「いやだよ。別れたくない！」


二人の言い争いに道行くカップルや家族は振り返って視線を向ける。


あたしは周りの視線に気をとられつつそれでも話を続けた。


「いいから別れて」


「絶対別れない！絶対に！」


「ふう～ん」


「歩、なんで別れたがるの？」


今にも泣き出してしまいそうな悠希の瞳は、ほのかに涙が滲む。


吸い込まれてしまう大きな瞳から目を反らし、あたしはずるく逃げて下を向く。


「わかんない」


「無理矢理連れてきたから嫌いになった？プレゼントしたがるのそんなに嫌だった？」


「さあ」


一生懸命理由を聞こうと話しかけてくれるのに意地を張り、優しくない単発な返事で悠希を苦しめている自分。


これじゃいけないってわかってる。


わかってるけど言った以上、止められなかった。


あたしは愛情をはかりたくなると“別れ”を匂わせる癖がある。


「別れたくない」


相手にそう言われるとなぜか安心していた。


離れていかない。


一緒にいてくれるんだと確認する為に…


これは自己満足の歪んでいる愛情のはかり方で、この方法が間違っているのもわかっている。


「ねぇ、好き？」


その一言で十分なのに、逆の言葉『別れて』を喧嘩のたびに言う。


本当に最低な女だ…


悠希にとってとんでもないクリスマスだったろう。


きっと思い出深い素敵なクリスマスにしたかったはず。


ただの頑固者のあたしはプレゼントしたいと言う気持ちを貰えばよかっただけなのに…


思い出となる１日を棒に振り、二人は喧嘩したまま悠希の車に乗り、無言で部屋に帰った。


気まずさを残し、二人でこたつに入り寒さをしのぐ。


静かな部屋にテレビを着けると、どのチャンネルもクリスマス、クリスマス…


もういい加減にして欲しい。


「はあ…」


「何？」


悠希のため息などそうそう聞けない。


クリスマスが出来なくて、余程がっかりしていたんだろう。


「もう気まずいの嫌だ。歩、ごめんなさい」


「えっ」


「ごめんなさい」


「う、うん」


どう考えても謝るのはあたしの方なのに、何一つ悪くない悠希はこたつ布団に顔を埋め、謝ってきた。