“♪~♪”


客専用の聞き慣れたメール音が部屋に鳴り響き薄ら目を開いたが、カーテンで閉めきった部屋は薄暗く、昼か夜かさえわからない。


酒臭さと香水の染み込んだ布団。


間違いない。


ここは自分の部屋だ。


「ううぅん……だりぃ…ったく気持ちわりぃっつうの」


昨夜は記憶が飛ぶ量の酒を飲んだ。


にもかかわらず、職場まで歩きで三分もかからない場所にアパートを借りていたおかげか無事に帰宅し、仕事着のまま布団にくるまって寝ていたらしい。


重い体を起こし、あたしは寝癖頭をかきむしり面倒くさそうに携帯画面を確認しつつ、慣れた手つきで作成する返信のメール。


「あ~っ。クソ男が。はい送信」


ぶつぶつ独り言を呟き、気持ちに反したメールを客に送った。


『来ないと寂しいよ~正直会えるなら仕事としてだけじゃなく毎日会いたよね。○○君が来るの楽しみに待ってるんだから今日も早く歩に会いにきて欲しいな』


媚びを売り、可愛い女のフリをして客を引く日課。


売り上げの為には仕方がないんだ。


再び布団に身を転がし眠りにつこうとしたが、残った酒がムカムカして耐えきれない。


「水、水…」


水を求め、壁に手をはわせやっとの思いでフラつく足元を支え、あたしは台所へ向かった。


足元に転がる無数の酒ビンや服の山を器用に蹴りあげ、水道の蛇口をひねり、コップに並々水をつぎ一気に飲み干す。


あ~気持ち悪っ。水は神だな…


そんなくだらない事を考え、コップを置こうと手を伸ばす。と


“がくっ”


突然目の前がぶれ、不安感から手をつき壁に寄りかかった。


ドクッ、ドドッ、ドドッ、ドッ


心臓から送り出される血液が不安定に全身を巡る。


まるであたしじゃないあたしが瞳を通し、風景を見ている感じ。


現実感すらない。


体調がここ最近やたらすぐれなく、あたしは妙な違和感を感じている。


天井は歪んで見え、呼吸が苦しく、まるで首を絞めつけられている感じがする。


それは元旦那の智也に首を絞められたあの日と同じように…


呼吸の乱れを落ち着かせる為に目を閉じ、ジッとその場で体を丸め、時を待った。


遠くで鳴っている客からの着信音が虚しく耳に入ってくる。


勘弁してよ…今無理…