「えっ、マジ!?全然いいよ。じゃ、アドレス交換しよっか?」


慶太さんは唐突な行動に驚いたのか一瞬ひるんだが、すぐ嬉しそうな表情を浮かべ目尻を下げている。


慶太さんの柔らかな瞳。


その瞳が一段と和らいで見える。


「はい!!紙持って来るんで待ってて下さい!!」


必死に恥ずかしさを隠し、目を輝かせたあたしは急いで紙とペンを取りに行き、ものの数秒で席へと戻った。


「これにお願いします」


「あいよん」


慶太さんに紙とペンを手渡すと軽快にサラサラペンを滑らせ、メモした紙を小さく折りたたみ、あたしの手にねじり込んだ。


「やっ。ちょっ、えっ!?」


「んじゃ~これが携帯番号とアドレスね。歩ちゃんのも教えて」


ほんの少し手と手が触れただけで初恋に落ちた子供のようにドキドキする。


「あっ。はい!!」


慶太さんからペンを渡され、ペンに残る微かな体温を感じつつ、ニヤついて電話番号とアドレスを書いていると


「歩ちゃん。俺のはいらないの~慶太だけ~?」


慶太さんの友達は羨ましそうな顔で鼻の下を伸ばし、書いていた紙を覗き込んでいる。


いやらしい鼻の下とカバ顔がより一層まぬけに磨きをかける。


「おまっ、何してんだよ!お前はいいの!俺と歩ちゃんの秘密なんだから。うおりゃ!歩ちゃん今だ!早く書け書け」


慶太さんははしゃいで友達の目を押さえ、早く書けと言わんばかりに顎で合図を送ってきた。


焦っておごつかない手のせいで、ミミズ染みた汚い文字が紙面に完成していく。


「慶太羨ましすぎるぞ!全然なんも見えない~」


「あはははっ!!あんたらマジうける!」


「見えねえだろ〜〜。うおりゃうおりゃ」


慶太さんの友達は漫才風に手足をバタつかせ、その場に一気に笑いを起こしてくれた。


カバ顔のモテそうにない慶太さんの友達と、誰もが頷く美形な慶太さん。


なぜと問いたくなる不思議な組み合わせの二人だが、この二人が一緒にいる意味がちょっとだけわかる気がする。


互いが互いを必要とし、居心地の良さもあるが、心のバランスがとれる二人なんだ。


あたしにも親友って奴が一応いるからそういうのはなんとなくわかる。