西野君が来ると必ず席につかなければならない法則が出来上がっていて、とても嫌だ。


というより着きたくない理由があったんだ…


「歩ちゃん。ちょっと!」


ママに呼ばれ、ふらつく体を起こし、駆け引きを楽しんだ客にお辞儀をする。


自分なりに懸命に食べていても全く太れなくて、以前より細くなった手でカウンターを伝い歩きし、ママの元へ向かうと、見事に嫌な予感は的中した。


「ほら。歩ちゃん大好きな西野君がお待ちかねで待ってるよ。ガンガン飲ませてもらえ~」


最悪だ。


行きたくない。


客は女の子を選べても女の子は客を選べない。


あたしは人間だけれどこの場では物と同じ商品。


商品は黙って客に引き渡たされるものだ。


「はい。ゴチになってきます」


嫌々なんて言ってられず、金の為と割りきり、表情を切り替え、西野君の元へ向かう。


「はい。歩ちゃん登場!あたしのガソリンちょうだいな」


「お~歩ちゃん来た来た!ミニスカ最高!」


いつもの調子で笑いから入り、酒の催促をして待ってましたと言わんばかりにあたしはすぐ場を盛り上げた。


「歩ちゃん。こっち座って」


西野君はあたしを呼ぶと隣に座り、顔を至近距離まで近付け見つめたり、いやらしく皆に見えぬようテーブルの下で足を撫で回す。


その手つきが本当に気持ち悪い。


吐き気がしてたまらないけどぐっとこらえ、我慢し、酒を作るフリをしてその手を払いのけた。