10分後。
頼みもしないのに、ドラッグストアで検査薬を買ってきた翼。

「イヤなら捨てていいぞ」
テーブルの上に置くと、部屋を出て行った。

でも、はっきりさせないと薬はもらえない。
このままでは私の方がまいってしまう。

私は這うようにトイレに行き、小さくて細長い箱を空けた。

2分・・・

3分・・・


5分・・・

時間てこんなに長かったっけ。

そして、結果は(+)。
妊娠反応あり。

嘘。

どうしよう、このタイミングで妊娠なんて。
出産?
育児?
私が・・・親になる?
うーん考えられない。

トントン。
「紅羽?大丈夫か?」
「うん」

「何か薬を持ってこようか?」
「ううん。いらない。今日はこのまま寝てるから」
「そうか」

勘のいい翼のことだから、もしかしたら気づいたのかもしれない。
私は頭から布団をかぶり、ベットに潜り込んだ。

悩んだ。
答えが出ないのは分っていて、それでも1人考え続けた。
今の私は自分のことで精一杯。
子供なんて持つ余裕はない。
でも、この命を手放すことはできない。



結局、他に頼る当てのない私は翼に診断書を書いてもらった。

「翼、ごめんね」
「いいよ。気にするな」

『ストレスから来る体調不良。1週間の自宅療養が必要』
そうじゃないと分っているはずなのに、黙って書いてくれた。

それから3日ほどはベットで過ごし、少しずつ動けるようになった。
吐き気も食欲不振も変わらないけれど、原因がわかっただけで心の負担は軽くなったし、赤ちゃんのためだと思えば少しずつでも食べられるようになった。

「旦那には?」
私のリクエストした梅ジュースを箱買いしてきた翼が心配そうに見ている。

「明日、行ってくる」
「大丈夫なのか?」
「うん。ゆっくり行くから」
少しは外の空気も吸いたいし、やっぱり直接伝えたいから。