「そう思われるのなら、安芸津様が伊勢の傍におればいい」
重実が言うと、途端に安芸津の勢いはしぼんでしまう。色恋は得意ではないようだ。
「い、今までは単に伊勢殿の気持ちがわからぬ故、迂闊なこともできなかったのだが。……伊勢殿は、おぬしを好いておるとわかったではないか」
「まぁ腕っ節の強い奴でないと嫌だというようなことは聞いたような気がしますが。それなら安芸津様でもいいわけですよ」
「それだけなわけはないだろう」
重実は首を傾げ、狐と目を合わせた。それ以外で考えれば、重実が安芸津より勝っているところなどない。身分はないし金もない。ついでに言うと、女子を想う心もない。
『うむ、わしでも安芸津につくわ』
「あっ酷ぇ。お前だけはおれの味方だろ」
『あ、一つあるぞ。重実のほうがこ奴より若い』
びし、と自慢の肉球を安芸津に突き付けて言う。
「え、まさか。若さだけで男は選ばんだろ」
「う、た、確かに私は伊勢殿よりも大分年上になる。同じように強いのであれば、伊勢殿としても歳の近い者のほうが気安いかもな」
「いやいや、そうじゃねぇんで。それに安芸津様だって、何もじいさんってわけじゃねぇんだし」
『それは慰めか? 嫌味か?』
狐の言う通り、引き合いに出すのが『じいさん』というのは如何なものか。だが立派なおじさんではあるのだ。
「それに何より、おれはここに留まる気はないですし。伊勢は武者修行に出たいそうですが、そんなものに出なくても、安芸津様の傍にいれば十分強くなれましょう」
『大体女子の身で武者修行の旅なぞ、できるわけなかろう』
単なる旅でも女子の身では難しい時代だ。そんな理由で許可など下りるはずがない。そこのところは伊勢だってわかっているはずだ。
「やはり、ここに残って働く気にはならぬか」
さも残念そうに、安芸津が言う。重実がここに留まれば、伊勢を取られるかもしれないのに、安芸津はそれよりも重実の腕を惜しむ。人がいいのぅ、と狐は鼻をひくつかせた。
「明日か明後日には発つ予定です。お世話になりっぱなしで何も返せませんが」
居住まいを正して頭を下げる重実に、安芸津は微妙な顔ながらも小さく頷いた。
重実が言うと、途端に安芸津の勢いはしぼんでしまう。色恋は得意ではないようだ。
「い、今までは単に伊勢殿の気持ちがわからぬ故、迂闊なこともできなかったのだが。……伊勢殿は、おぬしを好いておるとわかったではないか」
「まぁ腕っ節の強い奴でないと嫌だというようなことは聞いたような気がしますが。それなら安芸津様でもいいわけですよ」
「それだけなわけはないだろう」
重実は首を傾げ、狐と目を合わせた。それ以外で考えれば、重実が安芸津より勝っているところなどない。身分はないし金もない。ついでに言うと、女子を想う心もない。
『うむ、わしでも安芸津につくわ』
「あっ酷ぇ。お前だけはおれの味方だろ」
『あ、一つあるぞ。重実のほうがこ奴より若い』
びし、と自慢の肉球を安芸津に突き付けて言う。
「え、まさか。若さだけで男は選ばんだろ」
「う、た、確かに私は伊勢殿よりも大分年上になる。同じように強いのであれば、伊勢殿としても歳の近い者のほうが気安いかもな」
「いやいや、そうじゃねぇんで。それに安芸津様だって、何もじいさんってわけじゃねぇんだし」
『それは慰めか? 嫌味か?』
狐の言う通り、引き合いに出すのが『じいさん』というのは如何なものか。だが立派なおじさんではあるのだ。
「それに何より、おれはここに留まる気はないですし。伊勢は武者修行に出たいそうですが、そんなものに出なくても、安芸津様の傍にいれば十分強くなれましょう」
『大体女子の身で武者修行の旅なぞ、できるわけなかろう』
単なる旅でも女子の身では難しい時代だ。そんな理由で許可など下りるはずがない。そこのところは伊勢だってわかっているはずだ。
「やはり、ここに残って働く気にはならぬか」
さも残念そうに、安芸津が言う。重実がここに留まれば、伊勢を取られるかもしれないのに、安芸津はそれよりも重実の腕を惜しむ。人がいいのぅ、と狐は鼻をひくつかせた。
「明日か明後日には発つ予定です。お世話になりっぱなしで何も返せませんが」
居住まいを正して頭を下げる重実に、安芸津は微妙な顔ながらも小さく頷いた。