「まぁ普通の人とは根本が違うわけだから、立ち合い時も普通の人よりは緊張しねぇかもだけどな」

「でもやはり、死なないとわかっていれば、こちらも安心です」

「もうそんな心配、することもねぇさ」

 自分の秘密を理解してくれたとはいえ、やはり重実はここに留まるわけにはいかない。皆が皆、理解を示すわけではないし、そもそもここでの知り合いは、皆きちんとした城勤めの者たちだ。そのような人々に半妖とも言える重実が長く関わると、ろくなことにならないのだ。

「……やはり、ここには留まってくれないのですか?」

 明らかに気落ちした様子で、伊勢が言う。ちらりと膝の上の狐が顔を上げた。

「長く留まれば、おれの変さに気付く奴が増える。狐憑きなんざ、とっ捕まるか迫害されるかのどっちかだぜ。あんたや安芸津様が気付いて庇ってくれても、噂が広まれば捨て置けなくなる。ひいては小野様や艶姫も、おれとの関わりで迷惑がかかる。そういうごたごたはご免だ」

 自分や安芸津だけならともかく、その上にまで累が及ぶと思うと、さすがに伊勢も、これ以上引き留められない。

「だから、私が国を出る、と言うのです。それならいいでしょう?」

「よくねぇよ。おれは目的があるわけでもなく、ただ諸国を渡り歩いているだけ。根無し草であるべき身体だからだ。だがあんたは違う。国を捨てなきゃならん理由もねぇ」

 重実が普通の人間で、どこぞの国から流れて来ただけの浪人だったら、伊勢を連れて旅に出て、適当なところで腰を据えればいい。だが普通でないので、連れ合いがいると困るのだ。重実の旅は腰を落ち着けないための旅である。一生続くのだ。同じような事情がある者でないと、とても付き合いきれるものではない。

「路銀だって別に気にしねぇし、泊まるところだって宿とは限らねぇ。食うもんも満足にあるとも限らねぇし、そんなむちゃくちゃな旅、女子は耐えられんだろ」

 旅芸人などの娘ならともかく、ずっとちゃんとした屋敷で育った、れっきとした武家娘の伊勢など、絶対に無理だ。