「……あなたに興味を持った、というのでしょうか。あなたがもっとゆるりとここにおられるのであればいいのですけど、このまま別れてしまうのは惜しいというか。もっとあなたを知りたいのです」

『この男に人としての深みなどないぞ?』

「それに、そんなに深く知られちゃ困る」

 うむ、と重実が頷く。

「何故ですか? 気になったお人のことは、知りたいと思うのが普通でしょう?」

「知ったところでいいことばかりじゃねぇ。知らないほうがいいことだってあるぜ」

「そうでしょうか? たとえどんなことだって、あなたのことなら知りたいと思います」

「……おれが化け物でもか」

 ぽつりと言い、重実は、ひょいと狐を抱え上げた。そのまま、わしわしと伊勢に押し付ける。

『のわっ! 何をするんじゃっ!』

「ひゃっ!」

 じたばたと暴れる狐に、伊勢が驚いた声を上げる。狐の姿は見えていないが、何かもふもふのものを押し付けられ、さらにそれが動いていたのがわかったのだろう。

「何か感じただろう?」

 何かを掴んでいた手を放すように、ぱ、と重実が手を開いた。何かがぼてっと伊勢の膝に落ち、それはすぐに膝を蹴ってどこかに行った。

『全く、いきなり何じゃ。伊勢がはねっ返りだからいいようなものの、わしのふさふさの毛皮に紅でもついたらどうするんじゃっ』

 狐はぶちぶち言いながら、重実の背後に回る。

「い、今のは……?」

 何かが落ちた感触のある膝をぽんぽんと叩きながら、伊勢が驚いた顔で言った。

「おれに憑いてる狐さね」

 軽く言う重実を、伊勢は少し眉根に皺を寄せて見つめた。何でもかんでも鬼のせいにしていた昔とは違う。医学だって進んでいるのだ。狐憑き、という言葉は生きているが、実際憑いた者など見たことはない。しかも重実は、妙な行動を取るわけではないのだ。独り言は多いが。