「連れて行って欲しい、と言っても、無理なのでしょうね」

 諦めたように言う。重実はその場に腰を下ろし、正面から伊勢を見た。

「何でだい? そんなに武者修行に出たいのか?」

「……それも魅力的ではありますが……。でも所詮、女子の身では知れています」

「そうだなぁ。それ以前に、自由気ままに諸国を渡り歩くこと自体が難しいし。体力も違うしな。そもそもそんなに強くなる必要もないだろ。今の状態でも十分強いよ。城の剣術指南役なんだろ」

「指南役といっても奥向きですから、女中らですし。それこそ知れてますよ」

「……まぁ確かに、伊勢の腕を存分に発揮できるところではないだろうな」

 少し、重実は納得した。相当な遣い手でありながら、その腕を発揮する場がない。今回のような姫君の護衛など、滅多にあることではない。まして実際に剣客と斬り合うなど、まずないことだ。

「でも言ってしまえば、伊勢のその腕は発揮されないほうがいいんだぜ。折角綺麗な女子なんだから」

「え」

 伊勢が驚いた顔になり、見る間に真っ赤になる。

「あれ? 安芸津様とか、言わないか?」

 意外な反応に聞いてみると、とんでもない、という風に、伊勢はぶんぶんと首を振った。

「腕のほどは褒めてくださいますけど、そんな、外見のことなど」

『そうじゃったかのぅ? 言うておらんかったか? おぬしが気にしておらぬ故、耳に入らんかっただけではないか?』

 狐がずいずいと伊勢に迫りながら言う。

『もしそうなら、安芸津も可哀想な男よの。おぬし、安芸津には全く興味なしか?』

 鼻先まで近付いて言うが、当然伊勢には聞こえない。ひたすら赤くなっている。

「相手がいないで物足りねぇってんなら、安芸津様に頼めばいいじゃねぇか」

「わ、私はあなたと一緒に行きたい、と言っているのです」

 いきなり伊勢が、真面目な顔になって、きっぱりと言った。

「何で?」

 間髪入れずに重実が返す。すると伊勢は、少し困った顔になった。