「おぬしが鳥居と立ち合ったのであろう? 奴は恐ろしい剣鬼ぞ。その鳥居と互角に立ち合えたが故に、安芸津も北山に集中できたのじゃ」

「しかし、その鳥居は取り逃がしました」

「構わぬ。奴は単なる浪人じゃ。後ろ盾がなくなれば何もできぬ。北山を失ったことを根に持つような奴でもないしの」

 確かに、北山のことは単なる金づるとしてしか見ていないと思われる。ああいった手合いはそういうものだ。

「ところで、どうじゃそなた。仕官を望むのであれば、此度の褒美に何ぞ口を利いてもよいぞ」

 小野が言った途端に、艶姫が、ずいっと身を乗り出した。

「そうそう。ねぇ久世様、是非仕官して、伊勢に見合う地位を手に入れて頂戴」

「伊勢?」

 訝しげに重実が言うと、艶姫は小野に顔を向けた。

「伊勢は確か、奥向きの剣術指南役でしたわよね。それに釣り合う身分って、何になるのでしょう?」

「伊勢に釣り合う身分ですか……。それなら同じ指南役になるのが一番早いでしょうが。それについては腕のほどが相当でないといけませぬなぁ」

「大丈夫ですよ。無頼浪人なんか、何人で来ようがあっという間に蹴散らせるほどの腕ですし」

 何だか話が大きくなっているような。そもそも姫の前で剣術を披露したのは初めの一度きりだ。確かに五人ほどの刺客を蹴散らしたが、重実一人ではない。伊勢も戦っていたのだし、何より相手の腕も、さほどでもなかった。腕のほどは、姫にはわからないのだろう。何人かを蹴散らした、というだけで強いと思っても仕方ないが。

「それなら試験を受けてみるか? 確かに剣術指南役は、もっとも身分に関係なく就ける役目じゃ。今の指南役を打ち負かすほどの腕であれば、誰も文句は言わぬ」