三日もすると、重実は普通に歩けるようになった。傷はすぐ治るわけではないとはいえ、人よりは早いようだ。単に大怪我に慣れてしまって、さほど痛みも感じなくなってしまっただけかもしれないが。

「ほんとにもう何ともないのですか?」

 伊勢が疑わしそうな目を向ける。傷を間近で見ただけに、どうしても信じられないらしい。

「大丈夫だって。それよりも、おかしくねぇか?」

 重実は小奇麗な羽織袴姿だ。城に上がるのに今までの浪人体で行くわけにはいかない。それを理由に拒否しようとした重実だが、安芸津が自分の着物を出した。最早艶姫の希望は命令なのだ。

「おかしくはないですけど」

『似合わぬ』

 微妙な顔の伊勢の言葉に、狐が付け足す。

「おれだって似合うとは思ってねぇよ」

「い、いえ、そういうわけでは」

 伊勢が慌てて両手を振る。そこに、安芸津が入って来た。

「支度はできたか? そろそろ出かけようぞ」

「ほーい」

 気のない返事を返し、安芸津について屋敷を出る。城に呼び出されたとはいえ、さすがに殿様に会えるわけではないだろう。何と言っても重実は単なる浪人だし、それでなくても殿様は病で臥せっているという。それなりの地位の者が、此度の働きを労う程度だろう。
 思った通り、通されたのは城の庭先。階の前で控えていると、ぱたぱたぱた、と軽い足音がした。

「久世様、お久しぶりね」

 艶姫が、奥から出てきて声をかけた。安芸津が、ごほんと咳払いをする。

「艶姫様、もう商家の娘ではないのですから、謹んでくださいよ。わたくしどものことも、呼び捨てで結構」

 頭を下げ、安芸津が言う。

「そうだったわね。でもいきなりそんな、偉そうにできないわ」

 困ったように言い、艶姫はすとんとその場に腰を下ろした。そして、思い出したように階の上から身を乗り出す。

「そうだ。久世様、斬られたのですって? 大丈夫だったの?」