「何だ、呆気ないな」

『女子二人だと思うて、油断しておったのじゃろ』

 びゅん、と血振りをくれながら、重実は倒れた男たちから蓑と笠を奪った。それを持って元のところまで戻る。
 女二人は驚いた顔で、その場に蹲っていた。

「ほら、いいものが手に入った」

 なるべく血のついていない二つを渡すと、女子はじっと重実を見た。非難がましい目だ。

「追剥ぎみたいなことするなってか? けどあんたら、どう見たって旅慣れてねぇし。そんな恰好じゃ、あっという間に雪だるまだぜ」

 重実の言葉に、女子は振り向いて娘を見た。ずっと大して動いていない娘のほうは、なるほど確かに、すでにほぼ雪に埋もれている。

「仕方ありません。姫様、これを」

 蓑を娘にかけようと身体を捻った途端、女子はその場に頽れた。見ると真っ青だ。

伊勢(いせ)っ!」

 娘が女子に縋りつく。

「おっと、そういや手当ての途中だったな」

 とはいえこんな屋外では、大した治療もできない。

「宿場は本当に近いんかなぁ」

 きょろ、と見回してみても、宿場はおろか建物自体見えない。街道よりも斜面を上がっているのに、周りは山ばかりだ。

「あ、あの……。宿場はちょっと……」

 娘が、おずおずと言った。そういえば追われているようだし、足取りが掴めるようなところには泊まりたくないだろう。
 だが雪の中野宿などすれば、あっという間に死んでしまう。伊勢という女子のこともある。

「訳ありなんだろうがな、必死で逃げてんのに追っ手に捕まるでもなく野垂れ死になんて、逃げた意味ねぇだろ。このねーさんの傷もある。ちゃんとしたところで休まねぇと危ないぜ」

 言いつつ、重実は先ほどの手拭いで、とりあえず女子の傷口を縛った。その様子を見、娘も頷く。

「……いけません。わ、わたくしのことは、お気になさらず……」

 最早起き上がる力もないくせに、女子は娘を庇う。やれやれ、と息をつき、重実は腰の小刀を抜いた。

「そんなに娘さんを案ずるなら、あんたも覚悟を決めてくれ。でかく姿を変えりゃ、宿に泊まっても、そうそう見つからんだろうさ」

「姿を変える?」

 娘が自分の身体に視線を落とす。いかにも姫君然とはしていないが、旅装束でもない若い娘が山の中の街道をふらふらしているだけでも目を引く。