重実の旅は、一所(ひとところ)に留まることを避けるためだ。それは土地だけではなく、人との関わりについても同じこと。誰かとずっと一緒にいることは避けている。

「何でだよ。旅がしたいのか?」

 女子は普通、国を出ることはない。今回のような特殊任務でなければ、旅にだっておいそれと出られない時代だ。

「強くなりたいのです」

 強い瞳で言う。が、重実は眉を顰めた。

「あんたは十分強いよ。それ以上強くなって、どうしようってんだ」

「この程度の強さでは、いざというとき何の役にも立ちませぬ。いざというときに立ち向かわねばならない敵というのは、遥かに強い。己の未熟さを、まざまざと見せつけられたのです」

「いざというときなんて、そうそうあるもんじゃねぇ。それにお姫さんの警護がなくなるのであれば、それこそそんな必要ないだろう。あんたも女子なんだし、これを機に剣を捨てるのもいい」

 重実が言うと、伊勢の顔が歪んだ。が、何か言う前に、すらりと襖が開く。

「その通りだ。伊勢殿、こののちは、女子の幸せを選ぶべきだ」

 安芸津が入ってくる。

「随分話し込んでおられたが、傷のほうは大丈夫なのか?」

「あ? ああ、何ともない」

 へら、と笑って見せると、安芸津は一層妙な顔をした。

「相当な傷だったと思うが」

「おれにかかれば、どんな傷もかすり傷さね」

 もっとも痛みは普通にあるので、かすり傷とも言えないのだが。恐ろしいことに、痛みにも慣れるものなのだ。

「ところで北山は?」

「ああ、あっさりと口を割った。北山からすれば、黙っていればいるほど、己の身が危うくなると思ったのではないかな。まぁ喋ってしまえば危険はなくなるという保証もないが」

「……ま、殺されるにしても、そう急ぐ必要はなくなるわな」

「あとはこの次第を、小野様に届ければいい」

 証拠は固めたので、あとは上に任せておけばいい。