「そんじゃま、おれの出番もここまでだな」

 この先は藩内の問題だ。そんなところまで関わるつもりはないし、関われる身分でもない。

「でもお手前は、まだ傷が癒えておらぬし、とりあえずは養生したほうがよかろう。安芸津様も、そのつもりでご自宅に連れてきたのだし」

 そう言って、清水は部屋を出て行った。確かに死なないとはいえ、傷は傷だ。すぐに動けるわけではない。

「けどまぁ、そうそう世話になるわけにもいかんしな。さて、次はどこに行こうかね」

 ちゃっかり布団の上で丸まっている狐に言う。

『どこに行くとか、決めたところでおぬしでは辿り着けぬわ』

 極端な方向音痴の重実は、目的の場所にすんなり着けたためしがない。元々用事があるわけではないので、それでも全然構わないのだが。

「どうせなら、う~んと遠くに行くかな~」

 呑気に言っていた重実だが、はた、と視線を感じて振り向けば、伊勢がじっと見ている。そういえばいたんだった、と、ようやく存在を思い出した。あれだけ乱暴に扱われて、忘れられるのも凄い神経だが。

「久世様は、諸国を旅して歩いているのですか?」

「うん? ……うん、まぁそうなるかな」

「武者修行の旅をしているわけですか」

「いや、そういうわけでもねぇけど」

 この剣の腕は確かに長年の旅の中で鍛えたものなので、結果的には武者修行の旅になっているのかもしれないが、別にそれが目的なわけではない。旅をせざるを得ないから、自然に強くなっただけだ。

「わたくしも、連れて行っては貰えませぬか?」

 いきなりな申し出に、重実はきょとんとした。

「……ちらっとその辺に行くんじゃねぇんだぞ」

「わかっております」

「わかってねぇよ。あんたは姫さんの警護役だろ。警護役が姫さんの傍から離れて旅に出るって、意味がわからねぇよ」

「姫様の護衛など、最早必要ありませぬ。正式に城に入ってしまえば、ちゃんとしたお付きの者がおりますし、そもそも襲われることなどありませぬ」

「そうは言ってもなぁ……」