「よっしゃ。ま、こんなもんだろ」

 ぽん、と腹に巻いたさらしを叩いたとき、清水が部屋に入って来た。布団の上に胡坐をかいている重実を見、驚いた顔になる。

「え、起きて大丈夫なのか?」

「ん? ああ、大した怪我じゃねぇよ」

「それならよかったが……」

 言いながらもどこか不思議そうな顔をしつつ、清水は持っていた単衣を差し出した。重実の着物は血みどろだったので、着替えを持ってきてくれたようだ。

「しかし、あれほどの出血で、よくぴんぴんしていられるものだ」

「おれに関しちゃ、その辺は心配せんでいい」

 軽く言い、重実は単衣を羽織った。その身体を、伊勢がじっと見る。

「そういやここは安芸津様のお屋敷なのだろ? 北山もここに連れてきたのか」

「ああ。下手に奉行所に引き渡したら、いくらこちらの人間で固めているといっても安心できん。また明日には骸が増えるかもしれんし」

 田沢派の者で此度のことに関わった者は、ことごとく殺されている。まして暗躍の中心人物と言っていい北山が捕らえられたとなると、手段を選ばず消しにかかるだろう。

「安芸津様が、直々に尋問される」

「へぇ。お姫さんは無事なのかい」

 艶姫は少し前に城に入った。藩主が正式に艶姫の存在を明らかにしたので、とりあえずの身の危険はなくなったからだ。

「殿が艶姫様を思いの外可愛がられているので、周りは下手に手出しできぬ。殿の傍にいれば安全圏だ」

「そいつは良かった」

「北山を捕縛したことで、一気に田沢派に揺さぶりをかける。向こうも動くだろうしな」

 今夜のうちに北山から口書きを取り、明日早速城に届けるそうだ。そろそろ此度の事件も大詰めか。