「相当な傷じゃありませんか!」

 言いながら、袴の帯に手をかけて、しゅるりと解く。

『うわぉ。重実の貞操の危機か。いやいや、いたたたた』

「ちょ、馬鹿なこと言ってねぇで……て、いでででで」

『こ、こりゃ女子。襲うならもっと優しく襲わんかっ』

「馬鹿なこと言ってるのはあなた様ですっ! このような傷なのに、医者を拒むなんて」

 悶絶する重実から着物を剥ぎ取り、伊勢は絞った布で血を拭っていく。傷口の辺りを赤く染めていた血を拭うほどに、ぱっくり開いた傷が露わになった。伊勢の顔が青ざめる。

「やはり医者を……」

「待て待て。ほんとに大丈夫なんだって……いでででで」

 膝立ちになった伊勢の腕を掴み、その拍子にまた悶絶する。

「どこが大丈夫なんですかっ」

「そ、そう思うなら足払いを食らわすなんてことするな」

 呻くように言うと、やっと伊勢は口を噤んだ。ようやく落ち着き、重実はそろそろと上体を起こして傷を見た。

「さすがと言うべきか……」

 ざっくりと斬られた腹は、下手に動けばはらわたがはみ出そうなほどだ。常人であれば即死でないにしても死ぬであろう。

『は~、やれやれ。おぬしが普通の人間であったら危なかったのぅ』

 狐が己の腹をぺろぺろ舐めながら言う。別に狐の腹は斬られているわけではないのだが。
 とりあえず傷の手当てをし、最後にさらしを巻き付ける。そこで重実の手が止まった。いつもなら狐に手伝って貰うのだが、今ここで狐にさらしの端を渡すわけにはいかない。伊勢には見えないのだから、さらしが勝手に重実の周りをくるくる回ることになる。

「……悪いが、ちょいと手伝ってくれ」

 仕方なく、さらしの端を伊勢に渡す。すぐに察し、伊勢は手際よくさらしを重実の身体に巻き付けた。