「ふっ。強がりもほどほどにしておけよ。慣れるほどの傷ではあるまい。最早動くのもままならんのではないか?」

 鳥居が面白そうに言いながら、己の刀を肩に担ぐ。伊勢が、ざっと刀を構えた。重実がやられたと見、加勢に加わるつもりのようだ。

「まぁ何度食らっても痛いがな。生憎頑張って動かねぇと、さらなる地獄になるからな」

 常人であれば放っておけば死ぬ傷でも、死なない重実はただ苦しみが続くだけだ。故に少々傷が痛くとも、これ以上傷を負わないためには動かねばならない。

「てことで、あんたはちょいと引っ込んでてくれ」

 刀の切っ先で、伊勢を追い払う。

「な、何を言っているのです。その傷で、鳥居に勝てるとでも?」

「勝てるかどうかはともかく、傷は大したことねぇよ」

 ぴ、と手を振り、血を飛ばす。そして刀を構えた。

「やる気か。動けば動くほど、身体の中が潰れるやもしれぬぞ?」

 にやにやと鳥居が言う。刀を構える気配はない。このまま重実が苦しみつつ死ぬのを待つ気のようだ。

「おのれ、お前はそれでも武士か」

 伊勢が吠え、重実を押し退けて鳥居に刀を突き付ける。武士であれば、敵であろうとむやみに苦しみを長引かせるようなことはするべきではない。相手が致命傷を負ったなら、速やかにとどめを刺すべきなのだ。

『そうじゃそうじゃ! わしらはとどめというものが効かぬ故、貴様なんぞとっとと倒されてしまうべきなのじゃっ』

 それはちょっと違うぞ、と重実が突っ込む間もなく、狐は叫ぶと、地を蹴って鳥居に飛び掛かった。いきなり刀を担いでいた右手に食らいつく。

「ぎゃっ!」

 鳥居が叫び、危うく刀を取り落としそうになる。前触れもなく、いきなり右手に激痛が走ったのだから驚いて当たり前なのだが、刀を落とさないところはさすがである。が、その隙をついて、すかさず重実が踏み込んだ。

「りゃあっ!」

 気合と共に、構えた刀を大きく回して逆袈裟に斬り上げる。