「ですから、姫様を逃がすことで、その償いをしてください!」

 言うなり女子は、またも地を蹴った。先ほどとは違い、高く跳躍する。この雪の斜面で、驚くほどの脚力だ。

「やぁっ!」

 気合いを発し、振り被った懐剣を一人の男の頭上目掛けて振り下ろす。驚いた男だが、咄嗟に刀を掲げ、降ってくる懐剣を十字に受け止めた。がきぃん、と凄い音がし、男の態勢が崩れる。いくら女子とはいえ、全体重をかけた刀だ。軽く受け止められるものではない。
 唐竹割は阻まれたが、女子は地に降り立つと同時に、ぐんと上体と腕を伸ばして懐剣を横に払った。男の喉が、ぱっくりと開く。流れるような太刀さばきだ。

 だが女子はまたも、ふらりとふらついた。強くとも、体力は男に負けるし、背に大怪我を負っているのだ。そうもつまい。
 別の男が、女子に斬りかかってきた。

「女子一人に任せて逃げるほど、臆病じゃねーよっ」

 軽く言い、重実は一足飛びに女子に近づいた。そして斬りかかってきていた男の刀を紙一重で避けると、一旦納刀していた刀を抜く。しゃっという音と共に、男の脛を斬る。刀を振り上げた格好のまま、一瞬後には男は身体の後ろに両足を残したまま、前に顔から倒れこんだ。
 その男を飛び越えざま、背中から心の臓を一突きにしてとどめを刺し、重実はそのまま群がる男たちに突っ込んだ。
 気合いも何もない。銀の閃光が走り、赤い飛沫が飛ぶ。男たちの絶叫だけが聞こえ、真っ白だった山の斜面は辺り一面赤く染まった。