「居合か」

「さてね」

 じり、じり、と足先で地面を探り、鳥居が間合いを詰める。後方の安芸津も今はお互い間合いを測っているのか、しん、と静寂が辺りを包む。そんな緊迫した空気の中、一人(一匹?)狐だけが、きょろきょろと重実と安芸津を見、おもむろにてこてこと北山のほうへ歩み寄った。そして、いきなり北山の脛を、ふさふさの尻尾で撫でる。

「ひぇっ?」

 いきなり脛に妙な感触がし、北山は素っ頓狂な声を上げた。その瞬間、安芸津も鳥居も反応した。

「だあっ!」

 二人の気合が重なる。安芸津の剣は北山の首筋目掛けて落とされ、首根に入る直前で峰に返される。鳥居の剣は峰に返されることなく重実の肩口に落とされた。だがその途端、ぐん、と重実の身体が沈んだ。行き場を失った鳥居の刃が、重実の軌道を追う。

「やっ」

 軽い掛け声と共に、重実の腰から閃光が走った。同時に、キン、と音がし、鳥居の刃が僅かに横に流れる。

「甘いわっ」

 鳥居の軌道を外したとはいえ、軽く受け流しただけだ。すぐに反応し、鳥居は流れた刀をそのまま斬り上げようとする。だが、重実は先ほどの抜刀の勢いのまま、身体を反転させた。

「何っ?」

 思いもよらない行動だろう。重実は鳥居の目の前で一回転すると、そのまま遠心力の乗った刀を鳥居の身体に見舞おうとする。

「くっ……」

 鳥居が足を踏ん張り、思い切り後方に飛んだ。重実の刀は、鳥居の胸元を浅く裂いて流れた。

『ほおぉ。さすがじゃのぅ』

 狐が少し興奮気味に、後足で立ち上がって声を上げる。鳥居は自分も攻撃の途中だったのに、予測外の動きをした重実に反応し、見事に避けた。ほとんど無意識の、本能的な反応で攻撃を回避したのだろう。頭で考えていては間に合わないほどの反応の速さだった。