「お逃げください!」

 女子が叫んだ。そしてそのまま、色めき立つ男たちの中に飛び込んで行こうとする。
 が、不意にがくりと頽れた。背の傷は、まだ手当ての途中で開いたままだ。

「死ね!」

 男の一人が、女子に刀を落とそうとする。が、女子の頭を割る前に、男の刀は金属音と共に弾け飛んだ。

「とりあえず、詫びに助太刀してやるよ」

 女子と男の間に、いつの間にか割り込んでいた重実が、抜いた刀を手に言った。

『ふふふ、馬鹿どもめ。むざむざ命を捨てるようなものよ』

 狐が言うが、そう簡単なことでもない。死なないとはいえ、斬られれば痛い。死なないだけで傷はできるし病にだってなる。
 切り刻まれても死なないのは、ある意味地獄なのだ。故に、強くあらねばならない。

「いや、切り刻まれたらさすがに死ぬかな」

 喉を刺しても胸を突いても死なないとしても、身体の原型がなくなるほどぐちゃぐちゃになったらどうだろう。再生機能があるわけではないと思うので、ぐちゃぐちゃになったら死ぬのではないだろうか。

「ていうか、そうであって欲しい。ぐちゃぐちゃのまま生きるのは御免だ」

 自分の考えにぞっとし、重実は一人でぶるっと身体を震わせた。

「ふはは。怖気づいたか、小僧」

 震えた重実を見て取り、男たちが笑う。全然違うことを考えていた重実は、それでやっと我に返った。うっかりしているとやられてしまう。男たちは結構な人数だ。
 死なない故に斬られるのは嫌だ。不必要に痛い目には遭いたくない。

「七、八人か……。きついなぁ」

 ざっと人数を数え、ため息をつく。そのとき、背後に回していた女子が、きつい口調で言った。

「何の関りもない方を巻き込むわけには参りません。ですが、お願いできるのであれば、姫様を連れて逃げてください」

 懐剣を構えなおし、起き上がる。背からは新たな血が流れていた。

「と言ってもなぁ、おれが足跡をつけてしまったからバレたんだし」

 ぽりぽりと頭を掻く。
 街道から娘の隠れていたところまで、ばっちり足跡がついてしまった。娘らを追ってきた者であれば、そのような足跡、真っ先に疑うだろう。
 知らなかったこととはいえ、折角隠れていた娘らが見つかってしまったのは、重実のせいと言える。