ひとしきり重実に向かって吠えた後、伊勢は安芸津のほうを見た。

「ついては、わたくしも加えて頂きとうございます。鳥居は、久世様とわたくしで討ち取ります」

「何を申すか。そなたをそんな危険な目に遭わすわけにはいかぬ」

「されど、この傷の恨みを晴らす絶好の機会にございますれば」

「ならぬ!」

 伊勢と安芸津の応酬を、重実はぽかんと見た。一瞬だったが重実も鳥居と実際剣を合わせた。それだけで、ぞくりとするほどの手練れだとわかった相手だ。相当な遣い手であり男である重実が勝てるかわからない相手に、伊勢は女の身で挑もうとする。

『何とまぁ、呆れた女子じゃ』

 狐も呆気に取られて伊勢を見ている。

「けど立派だぜ。男でもあの男にここまで挑もうとする奴はいねぇ」

 感心しながら言う重実に、安芸津が渋い顔を向けた。

「確かに、心意気は買う。剣士としては立派だ。でも伊勢殿は女子なのだぞ」

『こういうときに女子だからっつー理由は逆効果じゃなぁ』

 狐の言う通り、伊勢は、キッと安芸津を睨む。

「女子だから何だというのです。確かに力は男子よりも弱いですが、そこは身の軽さ故の素早さで補っております。安芸津様以外の男子に、わたくしが負けたことがありますか?」

「う……。そ、そうだとしてもだな、鳥居は危険だ。そなただってわかっておろう!」

「だから久世様に助太刀を頼むのです。何も一人で立ち向かおうというわけではありませぬ!」

「俺は助太刀かよ」

 あくまで鳥居と対峙するのは伊勢ということか。狐が、ちらりと重実を見上げた。

『この女子を囮に使えば、変に手足をなくすこともないかもじゃ』

「そんな真似するぐらいなら、最初っから見捨ててるけどな」

 重実が言うと、伊勢が、はっとしたような顔になった。