「米俵をいくつか、持ち込んだ砂袋とすり替えろと言われたはずだぜ」

 ずばりと言うと、彦佐は口を引き結んで下を向いた。

「……し、知らねぇ」

 ややあってから、ぼそりと彦佐が呟く。

「おい、おれぁお前の命を助けたんだぜ。言わねぇってんなら、あの侍の代わりにおれが斬り殺してやろうか」

 刀の柄に手をかけて言うと、彦佐は慌てたように顔を上げた。

「違う! 誰からの依頼かってのは、ほんとに知らねぇんだ。いつもの飲み屋で集まってたら、いきなり声かけてきた奴がいてよ、金になる仕事があるっつぅから、ついて行ったんだ。そこで、米俵を砂袋にすり替える計画を聞いた」

「誰だよ、そいつは。どんな奴だ」

「だから、知らねぇって。こういうことは、お互い後腐れないよう、深くは突っ込まねぇんだよ」

「でも向こうはお前のことを知っていたってことだぜ。今襲われたのだって、その仕事の関係だろ」

 う、と彦佐が黙る。そうは言ったものの、元々彦佐たちを選んで抜擢したわけではあるまい。おそらく初めは放っておくつもりだったのではないだろうか。だが一人が抜け駆けし、すり替えた米を売りさばいた挙句捕まった。それで、関わった者を葬ったほうがいい、となったのだろう。お仲間が捕まった早々不審死を遂げたと知れば、臆病風に吹かれて此度のことをどこかで言うかもしれない。

「で? どんな奴だったんだ」

「どんなって……。顔は隠してたからわからねぇよ!」

「そんな怪しい奴の言うことなんて聞くんじゃねぇよ!」

「こんな仕事を持ってくるのなんざ、怪しい奴に決まってんだよ! そんなことでいちいちビビッてられるかい」

 やけくそ気味に、彦佐が叫ぶ。ちょっと、重実は彦佐を見直した。変なところで肝が据わっている。

「……へぇ。お前、ちょっと気に入ったぜ」

 にやりと笑うと、重実は彦佐の腕を掴んだ。

「立て。放っておこうと思ったがな、一緒に連れて行くことにした」

「えっ……。ちょ、あんた、もしかして岡っ引きか」

「馬鹿。浪人が岡っ引きなんかになるかい」

「じゃあ何でおれを引っ立てるんだ」

「さっき襲われただろう。このままだったら遅かれ早かれお前は奴に斬られるぞ。そうなってもいいなら放してやるが」

 抵抗していた彦佐の力が、ふ、と抜けた。大人しくついてくる。例の米俵をすり替えた張本人だと言えば伊勢が怒り狂いそうだが、とりあえずは生き証人だ。なんとかなろう、と重実はそのまま彦佐を藩邸に連れ帰った。