奪われた下り米は、意外にもあっさり見つかった。というのも手伝った一人が金欲しさに米を持ち出し売っていたのだ。問屋でも百姓でもない者がこの不作の折に米を売っているということで、あっという間にお縄となったわけだ。が、男は捕まった次の日には冷たくなっていた。

「詳しく取り調べられたらまずいからだろう。それにしても早い。こりゃ間違いなく奉行所内に手を下した者がいるな」

 藩邸の一室で、重実は情報を持ってきた小弥太を前に、渋い顔をした。とりあえず下り米の一件は、此度の捜査で荷下ろしした場所からほど近い舟宿の蔵に、砂の詰まっていた俵とそっくり同じ数だけの米俵が見つかったことで、無事事なきを得た。
 さほど騒ぎにもなっていないので、小野が罪に問われることもないという。だが一気に田沢を追い込むことは難しくなった。

「この分では荷下ろしを手伝った他の者も危ないかもしれませぬ」

 伊勢が固い表情で言う。下り米のすり替えは、殺された一人だけの仕業ではない。何人か仲間がいるはずだ。

「そうだな……。変に事情を知ってる奴は、消してしまったほうがいい。どこで漏らされるかわかったもんじゃないからな」

「でも田沢派と奴らとの繋がりは、調べようがありませぬ。唯一の手掛かりを殺されてしまいました故」

「いや、殺された野郎のことはわかるんだろう? だったらそいつの周りを洗えばいい。そういうことに乗る奴だ、似たような奴らとつるんでるはずだぜ」

 そう言って、重実は小弥太に、殺された男の素性を調べて欲しい、と安芸津に言伝を頼んだ。