「そうか。そんな目には遭いたくねぇな。でもそんな知らねぇ奴に大事な下り米を頼むほうも悪いんじゃねぇの?」

「さっきも言ったろ。下り米なんざ、緊急事態だ。すぐに人数集めようと思ったら、日雇い人足が一番簡単。ま、荷揚げさえしてしまえば、あとは藩の奴らががっちり守ればいい話だ」

「そうだな。……ま、とりあえずおれは口入屋に行ってみるよ」

「それがいい。荷揚げ人足は甘くねぇかんな」

 適当に話を打ち切り、重実は男と別れた。

『お前は話を聞きだすってのが上手くないから、こっちがはらはらするわい』

 男と別れるなり、狐が耳元で言う。そして、ぐい、と襟を咥えて引っ張った。

『伊勢はあっちじゃ』

 見ると、先のほうに見える柳の陰に伊勢が待っていた。重実が近付くと、すぐに口を開く。

「何かわかったのですか」

「おそらく、米俵と砂俵の入れ替えのからくりが、な」

 ぼそ、と言い、足を止めずにそのまま港から離れた。歩きつつ、周りに目をやり、米俵を隠せるようなところを探してみる。

「つっても、隠そうと思えばどこにでも隠せるよなぁ」

 この辺りの建物全て家探しするわけにもいかない。が、港から続く川沿いを歩いていて、ぴんときた。

「伊勢。北山って奴と関わりのある舟宿を洗い出して貰え。多分米俵はそこだ」

「え……。あ、なるほど」

 いきなりな命に、一瞬きょとんとしたが、すぐに合点がいったらしく、伊勢は頷いた。舟宿は大抵川沿いにあり、舟からの荷も積み込みやすくなっている。迅速に、かつ怪しまれないためには、舟宿を使うだろう。

「して、すり替えのからくりとは?」

「ちょっとした騒ぎを起こして、そっちに皆の目を向けたのさ」

 男は見慣れぬ者が、米俵を一つ駄目にした、と言っていた。多分わざと中身をぶちまけたりしたのだろう。米俵一つからこぼれた米を集めるのは大変だ。皆が必死でこぼれた米をかき集めている間に、俵をすり替えたのだ。

「それこそ慣れたもんなら、十何俵ぐらいあっという間にすり替えられる」

「そういうことだったのですね」

「まぁ見つけたところで、下り米じゃない、と言われればそれまでだが。でも港の米を買い占めてる証拠にはなる。それだけでも十分罪だぜ」

 いっそのこと、現在買い占めている米俵も見つけてしまいたい。多ければ多いほど言い逃れはできまい。

「下り米を奪った以上、北山は必ず動くはず。米滋と売り出す時期を打ち合わせるはずです」

「そこに踏み込むか。それまでに米俵を見つけねぇとな」

 頷きあい、二人は港を後にした。