「その下り米ってな、結構な量だろ? 全部じゃねぇにしても、奪ったほうも相当な労力だ。そう遠くにゃ運べねぇと見たが」

 奪うための人足とはいえ、大勢が妙な動きをすれば目立つ。おそらくすり替えに関わったのは二、三人ではないか。それだけの人数で相当数の米俵を遠くまで運ぶのは無理だ。とりあえずでも、傍のどこかに隠すはず。

「おれがその港の辺りを探ってみよう」

「わたくしも参ります」

 重実の申し出に被るように、伊勢が言った。どうもじっとしていられない性分のようだ。

「まぁ……おれは土地勘もねぇしな」

『それ以前に、信じられないほどの方向音痴じゃしのぅ』

 狐の言葉に、重実は内心それがあった、と思った。ここは目立たぬ造りで、さらに結構入り組んでいる。簡単に見つかるようでは困るので、隠れ家となるのは当然そういったところが選ばれるものだ。
 方向音痴の重実が、無事帰って来られる保証はない。むしろ可能性は低い。故に伊勢がいたほうがいいわけだ。

「では、それがしも……」

 安芸津が言うが、そこは伊勢が断った。

「安芸津様は、小野様派の中心ですので危険です。こちらの調べも、そうすぐに何かわかるとも思えませぬし、しばしお城のほうにお戻りください」

「しかし……」

「田沢派にも安芸津様は張られておりましょう。それに、八瀬様のことも気になります。八瀬様の身辺にも注意しておいて欲しいのです」

「う、そ、そうだな。今のところ、八瀬様のほうには何事もないようだが」

 何となく後ろ髪を引かれながらも引き下がった安芸津が、きょとんとしている重実に気付いて補足した。

「八瀬様というのが、勘定方だ」