「ふーん、なるほどな」

 仕舞屋で話を聞いた重実が、煙管を吹かしつつ呟いた。

「北山は妖術遣いでも飼っているのか」

 安芸津が悔しそうに言う。その横で、伊勢は若干冷めた目を向けた。

「何を馬鹿なことを。安芸津様らしくもない」

「しかし、現に米が砂に変わったのだぞ」

「そのようなこと、あるわけないではないですか。誰かがすり替えたに決まっております」

「だから! すり替えるにしても、どこで! どうやって! どう考えても無理なのだ!」

 拳を握る安芸津に、伊勢は小さく息をついた。

「そうでしょうか? 安芸津様は、船が城の米蔵につくまでに入れ替えがなされた、と思ってらっしゃるから無理だと思われるんですよ」

 冷静な伊勢の言葉に、安芸津はきょとんとする。重実は面白そうに、二人を眺めた。

「荷下ろしのときなど、絶好の機会ではないですか」

 いろいろな人足が入り乱れて、てんやわんやの大騒ぎになる。当然泉屋の者ばかりでは賄えないので、それ用に臨時に雇われた人足たちだ。

「港には他の船もありますし、同時に荷下ろししていた業者もあります。それらに紛れて、あらかじめ用意しておいた砂俵を混ぜ込み、代わりに米俵を掠めたのでしょう。そのまま運んでは目につきますから、すぐに何かで覆ったりして、どこぞへ運んだのではないでしょうか」

 船で直接城に入れるわけではない。港で荷揚げして、藩の米蔵までは陸路になる。そう長い道のりではないし、人の目もあるので、そこで襲われることはない。
 なるほど、と安芸津は手を打った。

『なかなか賢い女子じゃの』

 重実の背後で、伸びをしながら狐が言う。ああ、と呟き、重実は伊勢を見た。
 伊勢は城の剣術指南役の娘だとか。身分はさほど高くないが、家老である小野からも絶大な信頼を得ているという。実際相当腕も立つし、なるほど、頭もいい。