城の米蔵の前に、泉屋が立ち尽くしていた。ただ事ではない雰囲気に駆け寄ると、青い顔の泉屋が振り返った。安芸津の姿を認めるや、よろめくように縋り付いてくる。

「あ、安芸津様。とんだことになり申した」

「どうされたのだ」

 泉屋を支えながら蔵を見た安芸津は、我が目を疑った。目の前の米俵から、砂がこぼれ落ちている。

「先ほどこちらの米蔵に詰め終わったのです。無事に全て運び込んで安堵いたしましたところ、俵の一つから砂がこぼれているのに気付いて、不審に思って開けてみたのです。中が、まさか砂だとは」

 米俵の中は砂が詰まっていたのだという。安芸津はざっと蔵の中を見た。解かれた俵と、砂の山。

「す、全てか?」

「いえ、恐ろしくてまだきちんと調べてはおりませぬが、全てではないようです」

 泉屋が震える手で指したほうを見れば、立てられた俵がいくつか置かれている。反射的に、安芸津は駆け寄った。がばっと中を覗くと、そこには白い米粒が詰まっている。ほっとしたものの、立っているものはそう多くない。

「全て解いてみないとわかりませぬ。でも……この分だと大半が砂の可能性も……」

 肩を落とす泉屋の言う通り、蔵の中は砂だらけだ。

「許せぬ。騙されたということだな?」

 腰の刀を握り締めて言う安芸津だが、泉屋は渋い顔で、彼を押し留めた。口の前で人差し指を立て、自分も声を潜める。

「しーっ。滅多なことを仰いますな。事が露見すれば、小野様の首が危うくなりますぞ」

「し、しかし、これは上方の米問屋の責任ではないか」

「恐れながら、上方の問屋も信用できるお人です。此度下り米として手配するのに、小野様自らやり取りなされております。手前も現地で米を見ましたし、船に積み込んだ時点で砂だったということはありませぬ」

「となると、船が襲われたのか……?」

 それは考えにくい。泉屋は藩の御用達の資格を得ているので、此度の下り米の船も泉屋の御用達船で運ばれた。御用達船でない船でついたらすぐにわかる。
 かといって誰にも見咎められずに船を残して米俵だけを海上で他の船に乗せ換えることは不可能だ。

「わからぬ。米が勝手に砂に変わったのか……?」

 頭を抱え、安芸津は砂だらけの米蔵を見つめた。