「それなりに遣える者はおるが、鳥居に敵う者と言われると……」

 ちらりと安芸津の目が、重実を見る。腕のほどを見極めようとしているのだろう。

「……峠で姫君を襲ったのは、我らの調べでは五人ほどだと聞いておる。いずれもさしたる遣い手でもなかったが、人数はほぼ倍。しかし全員斬られておった。残念ながら死体を検分することはできなんだが、そなた一人で倒したのであれば、これは期待できる」

「どうだかな。そもそもおれが全員斬ったわけじゃねぇ。伊勢が二人倒したんだぜ」

 もっとも二人とも致命傷ではなかったので、引導を渡したのは重実だが。

「安芸津様。この伊勢もいること、お忘れなく」

 ずい、と伊勢が身を乗り出す。それに、安芸津は微妙な顔になった。

「おぬしは女子なのだから、そのように危険なことに飛び込まずともよい」

「何を仰せられます。安芸津様以外に、わたくしに敵う者がいるとでも?」

 う、と安芸津が口ごもり、重実は、ほぉ、と面白そうに伊勢を見た。

『とんだじゃじゃ馬じゃのぅ』

 退屈そうに、狐が伸びをしながら言う。そしてがしがしと後ろ脚で耳の裏を掻きながら重実を見た。

『乗ってやるのじゃろう?』

「ああ」

 久々に面白そうな案件だ。沖津藩のお家騒動などに興味はないが、藩内一っぽい遣い手と勝負できるかもしれない。

『下手を打ったら酷い目に遭うじゃろうがなぁ』

「なるべく迷惑はかけないようにするよ」

 狐に言った言葉に、安芸津と伊勢が頷いた。また相槌としておかしくなかったようだ。