「筆頭与力である北山殿は、その上のお奉行も逆らえぬほどの権力をお持ちだ。まぁお奉行というものは、ずっとその地位を引き継いでおる与力や同心から見ると新参者で頼りないものだからな。配下の同心の大場も町に出ては袖の下を要求し、それをせっせと北山殿に届ける。お奉行ですら節目節目の付け届けを欠かさぬとか。北山殿がお奉行を操り、田沢様の橋渡しをさせておるのだ」

「そんなに金をため込んで、まだ米で儲けようってのか」

 生きていくには、どうしたって金はいる。だが必要最低限あればいいではないか。欲のない重実には、そのような大金、どう使うのか皆目わからない。

「後ろ暗いことをしているお方というのは、金はいくらあっても足りぬであろうよ。何かするたびに口止め料など必要だろうしな。狂犬にも金はかかる」

 田沢の周りは、皆甘い汁を吸っているのだろう。

「本来なら全員斬って捨てたいところだが、それでは田沢様を喜ばせるだけだ」

 金づるの米滋が潰れたらちょっと痛いかもしれないが、変わりはいくらでもいる。悪事を知りすぎた者は頃合いを見て消すべきだ。その役目を図らずもこちらが担うことになるのは避けたい。逆にそれをネタに、こちらが潰される。

「ここのところ、北山殿と米滋のあるじが頻繁に会っておる。藩内の米不足を補うべく、小野様が指示した下り米を掠め取ろうという算段だろう。そこに踏み込み、奴らをふんじばる」

 できればお奉行も揃っていれば言うことはない、と安芸津は言う。だがそんな悪事を働く大物は、警護も多いのではないか。気が小さいならなおさらだ。

「北山殿は遣い手だ。侮れない腕だが、米滋のあるじとお奉行は何ほどのものでもない。ただ、鳥居がいると思われる」

「ふーん……。こっちの遣い手は何人いるんだ」