五日ほど、そんな日が続いた。茶屋を転々とするのも、いい加減限界になってくる。

「うーん、ここの宿場にゃいねぇのかな」

 最早食い飽きた団子にかぶりつきながら、重実は相変わらず通りへと目をやっている。初めは気になった旅装束でないどこぞの藩士も、どうも伊勢から聞いた風体ではない。だが。
 ちらりと重実は、視線を後方へとやった。隅に、見慣れた巡礼姿。

『あの巡礼、ずっとおるのぅ』

 狐は重実よりも前から不審に思っていたらしく、ずっと巡礼を追っていた。巡礼のほうも、さすがにずっと同じところにいては怪しまれるため、見ない日もあった。が、狐曰く店を変えていただけで、ずっとこの宿場に留まっているらしい。

『奴も、誰ぞを探しておる』

「お姫さんに関係あんのかな」

 人を探している、となれば、疑ってかかっていいと思う。伊勢たちが襲われた峠からは、ここが一番近い宿場町だ。逃げる者ならもっと遠くに行くかもしれないが、伊勢は斬られている。女子の足だし、怪我人付きであれば、ここまでが限界だろう。
 峠での敵は全員斬ったが、そこから先を考えたときに、田沢派も小野派も、同じ考えに辿り着く。だがここに辿り着くのは、敵方のほうが早いのではないか。姫を襲わせた者たちが帰らない時点ですぐに動いただろう。
 小野派はその点、状況分析に時間がかかろう。まず姫が襲われたところから調査しなければならない。

「でも、もうすでに結構経ってるぜ。味方が追いついてもいい頃だが」

 峠の事件からひと月弱。そろそろ見つけて貰わないと、ここにはいないと思われてしまう。

『巡礼が、笠を取ってくれればのぅ』

「身体付きだけだと、剣術をよくするようにも見えんしな」

 巡礼は笠を被っているので、顔が見えないのだ。伊勢から聞いた情報では、皆剣の遣い手だという。巡礼の身体付きは、遣い手のそれではないように思えた。

 ぶつぶつ思いながら席を立とうとしたとき、巡礼の傍に、す、とこちらも笠を被った人影が近付いた。ん、と重実が目を向けた一瞬、ちらりと近寄った人物が笠を上げた。
 僅かに見えた顔に、重実は、あっと息を呑む。一瞬だったが間違いない。ざっと周りを確かめると、重実は、何でもないような素振りで腰を上げ、店を出て行くように、自然に巡礼と一緒にいる男に近付いた。