『そういえば、あの者たち、よくいるくたびれた旅人風でもなかったな。うむ、どこぞに草鞋を脱いでおる、れっきとした藩士じゃろうて』

「てことは、国元から新たに人が寄越されている、ということか」

「その可能性が高いです」

 重実は狐の言葉に返したのだが、そんなことは知らない伊勢が、こくりと頷いた。伊勢の言葉の返事としてもおかしくなかったのだ。

「追ってくるのは田沢派ばかりか。お味方は来ないのか?」

「……いきなり襲われ、逃げ出した故、安芸津様に連絡を取る暇もありませなんだ」

 この方面に逃げたことを知るのは、敵方ばかりということか。

「安芸津様なら、何とかして私たちを見つけてくれるはずですが」

 この半月あまり、音沙汰はない。連絡手段もないまま姿をくらました者を探し出すのは容易ではないのだ。だから危険を冒しても、それなりに姿を晒す必要がある。

「でもその見事な変装じゃ、向こうもわからんかもなぁ」

「そうなのですよ……。探索にはいいのですけど、お味方にも見つけて貰えないという」

 困った、と伊勢は眉間に皺を刻んで考え込む。部屋から通りを見張ろうにも、この部屋は離れで、隠れるにはいいが、通りからは全く見えない。

「おれが探すっきゃねぇか」

 変に伊勢や艶姫を外に出して、この宿に踏み込まれても厄介だ。無関係な客や店の者が巻き込まれるかもしれないし、何よりそんな騒ぎになったら、宿にも迷惑だ。ここは敵にも味方にも面の割れていない重実が適任であろう。
 とはいえ、味方が追ってきていても、誰が来ているかはわからない。

「おそらく安芸津様はおられると思います」

 そう言って、伊勢は安芸津とその他、主立った小野派の面々の風体を、細かく説明した。