久しぶりに街に出た狐は、辺りを憚ることなくきょろきょろしていた。何せ姿が見えないのだ。何をしたって周りの人間はわからない。伊勢も同じように辺りを気にしているが、こちらは深く被った笠の奥から、注意深く周りを見ている。
 探索なら姿の見えない狐がうってつけだが、重実同様、狐だって艶姫の周りの人間の顔など知らない。適当に、すれ違う人を眺めたり、店をひやかしたり(といっても店の者には見えていないが)していたが、ふと伊勢が足を止めたのに気付き、狐はその視線を追ってみた。先に、武士らしき男が二人歩いている。


 伊勢はしばらく、その男を眺めていた。見たところ、特に殺気も感じない。
 狐はしばらく伊勢の様子を見ていたが、やがてするりとその男に近付いて行った。足元で軽く地を蹴り、狐は男の背を駆け上がると、堂々と肩に乗る。ちょっと男が、自分の首を掻いた。
 狐はそのまま頭を突き出し、男の胸元をじろじろと間近で見る。懐に前足を突っ込んでみるが、そこまでするとさすがに男が少し慌てたように、自分の胸元をぱんぱんと叩いた。狐が慌てて肩に戻る。

「どうされた、後藤殿」

 いきなり自分の胸を叩きだした男に、もう一人の男が声をかける。

「い、いや。何かむずむずしたのだが……」

 男がまた首を掻きだしたので、狐はぴょんと肩から地面に降り立った。そのまま、たーっと駆けて、伊勢の元に戻った。