半月もすれば、伊勢の傷も癒えた。早速袴を穿き、外に出ようとする。

「そんなうろうろして大丈夫なのか」

 全く関係のない重実のほうが、外を探るにはよかったが、生憎重実は小野派の者も田沢派の者も知らない。
 伊勢はどこか得意そうに、くるりと回った。

「ご心配召されるな。姿はあなた様が変えてくれたではありませぬか。まさかこの小僧が、女剣士・伊勢とは思いますまい」

 短くなった髪を頭頂できゅっと括り、笑ってみせる。艶姫はまだまだ幼い感じがするが、伊勢は大人の美しさがある。つくづく、こんな女子の髪を落としたことが悔やまれる。もっとも伊勢は気にしていないようで、むしろ敵方にバレにくくなったことが嬉しいようだ。

「おれも行くよ」

「駄目ですよ。私は一人でも大丈夫ですが、姫様は、そうはいきません」

 一人で行かせるのは危険だ、と思ったのだが、伊勢はあっさりと重実を退ける。腰に小太刀を差した姿は、すっきりとした若侍のようだ。これならそうそうバレないだろうし、バレたところで伊勢の腕なら何とかなるのだろう。

「うーん、そんじゃあ……」

 重実が言いつつ、つい、と顎を動かす。狐が、のそりと伊勢に近付いた。

「何かあったら頼むぜ」

『わしを女子につかすとは』

「姿は男なんだから、いいじゃねーか」

 短いやり取りを、伊勢が怪訝な顔で見つめる。狐の姿は見えないのだ。

「じゃあまぁ、気をつけろよ」

 ひらひらと手を振る重実に、伊勢は少し驚いた顔をした。が、すぐに笑顔で小さく手を振る。そして部屋を出て行った。