『もっともおぬしが斬られれば、わしも同じ痛みを味わうからのぅ。悠長に構えてもいられぬ』

 重実と狐は一心同体。一方が怪我をすれば、痛みはもう一方にも及ぶのだ。
 ちらりと重実は艶姫を見た。

「つってもな……。あんたも今まで放っておいたくせに、いきなり手元に呼び寄せて跡を継がそうなんて、腹は立たなかったのかい」

 孕んだ母親を捨てたようなものではないか。藩主の命令だとはいえ、反発を覚えるものではないのだろうか。

「初めはもちろん、殿様に腹は立ちましたよ。仰る通り、母を捨てたのですから。でも父が、殿様は折につけいろいろな贈り物をくださっていると。何も無慈悲に母を捨てたわけではないと言うのです」

「は。そんなことで、あんたはあっさり肉親の情に目覚めたのかい」

「そ、そりゃわたくしのこの言葉だけではそう思われるかもしれません。でも、何と言ってもわたくしを身籠った母を下げ渡された父が、殿はいい人だって必死で言うんです。商売人として甘い汁を吸ったのかもしれませんけど、それでも元々父は母を好いていたようです。殿様だって、母を手放すときは泣く泣くだったそうですし、せめて母を想ってくれていて、且つ信頼できる者に、ということで、父に白羽の矢が立ったそうなんです」

「確かにお殿様は、艶姫様の母君を、それはそれは寵愛しておりました。でもやはり、芸者では側室でも外聞が悪ぅございます。母君はなかなかな売れっ妓でしたので、過去を隠そうにも隠せなかった故、実らぬ恋であったのでございます」

 伊勢が、よよ、と袖で目を押さえながら口を挟む。実らぬ恋なら子など作らぬことだな、と心の中で言い、重実は冷めた目を向けた。