「女子みてぇなこと言ってんじゃねぇよ」

 呟き、重実は再び腰を落とした。ただ左手は先と同じく鞘を握っているが、右手はだらりと垂らしたままだ。居合いであれば、抜刀の速さがものを言うので、右手は柄に添えるべきなのだが。

「とあっ!」

 いきなり鳥居が足を踏み出し、刀を大きく振って突進してきた。ぶぅん、と風を切って、刃が重実を襲う。

「っと」

 少し上体を後ろにして切っ先をかわすが、鳥居はそのまま向かってくる。重実に刀を抜かせる気なのだろう。
 再び今度は逆から刀が迫る。ち、と舌打ちし、重実は一旦大きく後ろに飛んだ。が、着地と同時に地を蹴って前に飛ぶ。鳥居との間合いを一気に詰め、眼前で刀を抜き放った。キィン、と金属音が響く。

「……抜いたな」

 左右に大きく振っていた刀を顔の横で止め、そのまま八双に構えた鳥居が言う。そしてそのまま、すぐに足を踏み出した。

「そりゃっ!」

 ぶぅん、と重実の首筋ぎりぎりを鳥居の刀が掠めていく。重実に納刀の機会を与えないためか、鳥居の刀は止まらない。

「そりゃっ! そりゃっ!」

 ぶん、ぶん、と刀を振り回して、鳥居は休みなく攻撃を続ける。一見滅茶苦茶に刀を振っているように見えるが、僅かでも足を止めたら切っ先は重実の身体を裂く。ずっと動いているのに、鳥居の剣はぶれないし、息も乱れはない。

---確かにこいつは強敵だ---

 重実は鳥居の剣から逃れるのに精一杯だ。こうも立て続けに迫られると、攻撃に転ずる機会もない。
 そうこうしているうちに、重実の踵が道の縁にかかった。これ以上さがれば、川に落ちてしまう。にやりと鳥居が口角を上げた。

「とどめだ!」

 ひと際大きく足を踏み出し、鳥居は一瞬で振り被った刀を、大上段から斬り落とす。受けようもないほどの剛剣だが、後ろにさがれない以上は避けようがない。

「せぃっ!」

 重実は足を開いて、ほとんど鳥居の背後に回る勢いで、低い位置から横に身体を投げ出した。同時に両手で持った刀を引く。落ちて来た鳥居の刃が、残った重実の片足のふくらはぎを斬った。だがそれより深く、重実の刀が鳥居の下腹部を薙いだ。