ざくざくと、足の下で雪が解けていく。
 ふぅ、と息をつき、久世 重実(くぜ しげざね)は来た道を振り返った。ようやく峠を超えた。

『おお寒。よぅもまぁ、こんな雪の中山越えをしようと思ったものじゃ』

 にゅ、と重実の胸元から、一匹の狐が顔を出す。

「こんな大雪だとは思わなかったんだ」

『おぬしの読みはいつも甘いのぅ。山の天気なんぞ女子(おなご)の心のようにくるくる変わるぞ』

「なかなか風流なことを言う」

『ふふん。伊達に千年生きておらぬ』

 鼻を鳴らし、狐はするりと懐から出ると、ひょい、と重実の肩に上がった。そのまま、襟巻のように首に尻尾を巻き付ける。

「おお、あったかい」

『おぬしの体温で十分温かくなったからの』

 ほかほかの襟巻のお陰で、冷え切っていた身体が少し温まった。

「さて、もうちょっと行けば、宿場があるはずだ」

 気を取り直し、重実は雪道を進み始めた。