「ありがとう。これがオムライス……」
感慨深げに言いながら風花はジッと黄色い卵の上に、赤いケチャップがかかったオムライスをみていた。
「仲の良い友達だったのね」
惟子はお茶を入れて二人の前に置くと、風花の前にすわった。
「ええ、ずっと小さいころから一緒だったわ」
さっきまでとは違い、風化はそっとオムライスをスプーンにすくうとゆっくりと口に運んだ。
「美味しい」
零れ落ちるように言った風花の目からポロリと涙が零れ落ちる。
「あら、いやだ。ごめんね」
ごしごしと大きな瞳をこすると、今度は勢いよく風花はオムライスを口に入れる。
もしかしたらこれ以上この話を、風花が語るのは辛いのではないか、惟子はそう思うと特に何も言わずお茶を啜った。
「ここはね。下級あやかしや、何かミスをするとここでは下へ送られるのよ」
ポツリと食べながら言った風花に、惟子はそっと視線を向けた。
「下?」
「階段がたくさんあったでしょ? お絹はここに来るのに上に上がったわよね」
「ええ」
確かに階段がたくさんあったことを思い出し、惟子は相槌を打った。
「下に続くものもあるのよ。地下にね。そこは真っ暗で食事もろくに与えられず、ただ黒蓮様の指示で何かをしているの」
「何をしているのかはわからないの?」
惟子の問いに風花は、スプーンをおくと食べる手を止めた。
「ええ、戻ってきたあやかしはほとんどいないから……。一度下に行ったものは余程のことがない限り、上には戻れないわ。だから暁は……」
暁というあやかしが風花の友達と分かり、惟子も言葉を失った。
下級だったのか、何かミスをしたのかわからないが、暁は下へおくられてしまったのだろう。
「暁は逃げ出して、なんとか現世に行ったのよ。でもすぐに連れもどされたわ。最後になんとか人づてに聞いた話の中に、オムライスを食べたって嬉しそうに言っていたって……」
今度は決壊したように風花の瞳から雫が零れ落ちる。
「そう。辛かったわね」
月並みな言葉しか言えなかったが、惟子もサトリがいなくなった辛さは痛いほどわかる。
なんとか気を張って、前向きに頑張ってきたがサトリの優しい腕を思い出して胸が締め付けられる。
今、サトリも辛い思いはしていないのだろうか。
サトリやてんは大丈夫なのだろうか?
不安に押しつぶされそうになった時、目の前から明るい声が聞こえた。
「お絹、ありがとう。暁の言っていたオムライスを食べられて本当にうれしいわ」
もう涙はなく、吹っ切れている様な風花に惟子も気持ちを立て直す。
「よかったわ。喜んでもらえて」
「お絹の持ち場はどこなの?」
残りのオムライスを食べながら風花は惟子を見た。
「厨房って聞いているわ」
「これだけ料理が上手なんだもの。納得だわ」
最後のご飯の一粒まできれいに食べ終わると、風花は頷いた。
「私は、清掃や配膳とかをしているの。なにせ黒蓮様のところにはたくさんのお客様がいらっしゃるし、たくさんのお付きの上級あやかしも多いし。寝床の準備だけでも大変なのよ」
メイドのような仕事をしているのだろう、苦労話などをききながら久しぶりに惟子も楽しいおしゃべりをした。
「ご飯のお礼もかねて、後で〝中チュウ”を案内するわ」
「中?」
言葉の意味が解らない惟子に、お絹は紙とペンをもってくるように指示をすると、簡単な地図を書き始めた。
さっき見た広場を中心に広がる惟子たちがいる場所が〝中” そして黒蓮ら上級あやかしが住む場所が〝上”そして、さきほどの奴隷のような生活を強いられる場所が〝下”となるらしい。
「それにしても本当に自宅というより街ね……。妖都はみんなそうなの?」
「そんなわけないわよ。黒蓮様が特別よ。時期妖王ということで、まあ、やりたい放題というか……。自分専用でいろいろな物を作り始めた結果、ここまで大きくなったのよ。妖王様の王宮ですら店とかはないはずよ」
そうなのか。先ほど九蘭の話では妖王の方が立派という言い方をしていたが、あれは建物話なのか。
そう思いながら惟子は書いてくれた地図を見つめた。
敷地が広いのもあるが、やはり上下に広がるこの場所は入り組んでいて迷子になりそうだ。
「この中の店には外からも買い物に来れるの?」
「ええ、もちろん。それでなければ商売は成り立たないわ。ここにはいいものが一番に揃うし。でも税がかかって少し高いから、上級あやかしが主ね」
「そうなの」
どこの世界にも上級だの、下級だの身分があるのだ。そう思うと惟子は小さくため息を付いた。
しかし、少ししか見ていないが、サトリの西都はにぎやかで、太郎にしてもお琴にしても身分の高いあやかしではなさそうだったし、サトリに恩があるそう言っていたことを思い出す。
(私の旦那様は正しい人。だからこそ助けなきゃ)
色々考えていると、かたんと風花がたちあがったのが分かった。
「お絹、一度私は自分の家に戻るわ。そして1時間後に案内するわ。私が今日休日でよかったわね」
ヒラヒラと手をふる風花に惟子も手を振ると、お茶をゆっくりと飲んだ。
感慨深げに言いながら風花はジッと黄色い卵の上に、赤いケチャップがかかったオムライスをみていた。
「仲の良い友達だったのね」
惟子はお茶を入れて二人の前に置くと、風花の前にすわった。
「ええ、ずっと小さいころから一緒だったわ」
さっきまでとは違い、風化はそっとオムライスをスプーンにすくうとゆっくりと口に運んだ。
「美味しい」
零れ落ちるように言った風花の目からポロリと涙が零れ落ちる。
「あら、いやだ。ごめんね」
ごしごしと大きな瞳をこすると、今度は勢いよく風花はオムライスを口に入れる。
もしかしたらこれ以上この話を、風花が語るのは辛いのではないか、惟子はそう思うと特に何も言わずお茶を啜った。
「ここはね。下級あやかしや、何かミスをするとここでは下へ送られるのよ」
ポツリと食べながら言った風花に、惟子はそっと視線を向けた。
「下?」
「階段がたくさんあったでしょ? お絹はここに来るのに上に上がったわよね」
「ええ」
確かに階段がたくさんあったことを思い出し、惟子は相槌を打った。
「下に続くものもあるのよ。地下にね。そこは真っ暗で食事もろくに与えられず、ただ黒蓮様の指示で何かをしているの」
「何をしているのかはわからないの?」
惟子の問いに風花は、スプーンをおくと食べる手を止めた。
「ええ、戻ってきたあやかしはほとんどいないから……。一度下に行ったものは余程のことがない限り、上には戻れないわ。だから暁は……」
暁というあやかしが風花の友達と分かり、惟子も言葉を失った。
下級だったのか、何かミスをしたのかわからないが、暁は下へおくられてしまったのだろう。
「暁は逃げ出して、なんとか現世に行ったのよ。でもすぐに連れもどされたわ。最後になんとか人づてに聞いた話の中に、オムライスを食べたって嬉しそうに言っていたって……」
今度は決壊したように風花の瞳から雫が零れ落ちる。
「そう。辛かったわね」
月並みな言葉しか言えなかったが、惟子もサトリがいなくなった辛さは痛いほどわかる。
なんとか気を張って、前向きに頑張ってきたがサトリの優しい腕を思い出して胸が締め付けられる。
今、サトリも辛い思いはしていないのだろうか。
サトリやてんは大丈夫なのだろうか?
不安に押しつぶされそうになった時、目の前から明るい声が聞こえた。
「お絹、ありがとう。暁の言っていたオムライスを食べられて本当にうれしいわ」
もう涙はなく、吹っ切れている様な風花に惟子も気持ちを立て直す。
「よかったわ。喜んでもらえて」
「お絹の持ち場はどこなの?」
残りのオムライスを食べながら風花は惟子を見た。
「厨房って聞いているわ」
「これだけ料理が上手なんだもの。納得だわ」
最後のご飯の一粒まできれいに食べ終わると、風花は頷いた。
「私は、清掃や配膳とかをしているの。なにせ黒蓮様のところにはたくさんのお客様がいらっしゃるし、たくさんのお付きの上級あやかしも多いし。寝床の準備だけでも大変なのよ」
メイドのような仕事をしているのだろう、苦労話などをききながら久しぶりに惟子も楽しいおしゃべりをした。
「ご飯のお礼もかねて、後で〝中チュウ”を案内するわ」
「中?」
言葉の意味が解らない惟子に、お絹は紙とペンをもってくるように指示をすると、簡単な地図を書き始めた。
さっき見た広場を中心に広がる惟子たちがいる場所が〝中” そして黒蓮ら上級あやかしが住む場所が〝上”そして、さきほどの奴隷のような生活を強いられる場所が〝下”となるらしい。
「それにしても本当に自宅というより街ね……。妖都はみんなそうなの?」
「そんなわけないわよ。黒蓮様が特別よ。時期妖王ということで、まあ、やりたい放題というか……。自分専用でいろいろな物を作り始めた結果、ここまで大きくなったのよ。妖王様の王宮ですら店とかはないはずよ」
そうなのか。先ほど九蘭の話では妖王の方が立派という言い方をしていたが、あれは建物話なのか。
そう思いながら惟子は書いてくれた地図を見つめた。
敷地が広いのもあるが、やはり上下に広がるこの場所は入り組んでいて迷子になりそうだ。
「この中の店には外からも買い物に来れるの?」
「ええ、もちろん。それでなければ商売は成り立たないわ。ここにはいいものが一番に揃うし。でも税がかかって少し高いから、上級あやかしが主ね」
「そうなの」
どこの世界にも上級だの、下級だの身分があるのだ。そう思うと惟子は小さくため息を付いた。
しかし、少ししか見ていないが、サトリの西都はにぎやかで、太郎にしてもお琴にしても身分の高いあやかしではなさそうだったし、サトリに恩があるそう言っていたことを思い出す。
(私の旦那様は正しい人。だからこそ助けなきゃ)
色々考えていると、かたんと風花がたちあがったのが分かった。
「お絹、一度私は自分の家に戻るわ。そして1時間後に案内するわ。私が今日休日でよかったわね」
ヒラヒラと手をふる風花に惟子も手を振ると、お茶をゆっくりと飲んだ。