雲一つない真っ青な青空と、濃いブルーの海の境目がわからないぐらいの晴天。
ゴールデンウィークが終わったばかりだというのに、汗ばむような陽気の中、惟子はテラスでご近所からいただいたマアジをみりん干しにしていた。

祖母から直伝のこの合わせダレで作る干物は絶品で、いくらでも白米が食べれそうだ。

漬けだれに付けた後、最後にゴマをふるともうおいしそうだった。
一心不乱に作業をしていたが、油断するとすぐに不安が押し寄せる。

あの日、そうサトリを見送ってから、すでに1カ月以上晴天が続いている。
そう、もはやこれは異常気象にも近い状態だ。
この周辺では雨が降っているので、水不足だとか、ダムがとかそんなニュースはテレビから流れてこないが、惟子のこの店にとって、いや、惟子にとってこんなに長くサトリが、あやかしが姿を現さないことは異常以外の何物でもないかった。

「ねえ、てんちゃん」
テラスでジッとしているてんに声を掛けると、てんはすぐに寝たふりを決め込む。

「ねえ、てんちゃん!起きてるんでしょ!」
撫でまわすようにその小さな生き物を弄り回すと、さすがのてんも諦めたように目を開けた。

「ゆいちゃん、だから何度聞かれても僕は知らない」
すっとそっぽを向くと、テラスの木の影に隠れる。

「こんなに長く雨が降らないなんて、おかしい! てんちゃん絶対知ってるに決まってる!」
テラスの陰からてんを抱き上げると、惟子はジッと見つめた。

「だから僕は……僕は……」
言い淀むてんに、更に追い打ちを掛けるように、惟子は言葉を重ねた。

「ねえ、てんちゃんだってサトリさんのこと心配でしょ? 違うの? もしかしてここにいれば美味しい料理食べれるしラッキーとか思ってるの?」
「思ってるわけない!僕だってサトリ様のところに今すぐ……」

そこまで言ってハッとしたのか、てんは惟子の手の中でうなだれるように俯いた。