『なにか目印、目印……』


 その場でくるくると回りながら見覚えがあるものを探してみるけれど見つからず、ついにはたった今来た方角さえ見失ってしまい、一気に不安が込み上げてくる。


『どうしよう』


 私はその場に立ち尽くして途方に暮れた。

 お父さん、お母さん……は、来てくれるわけないか。
 むしろ、私なんかいなくなればいいって思ってるのに。

 胸に期待と落胆が同時に浮かんでは消えていく。

私が湿った土の上に座り込んで膝を抱えたとき――視界をよぎる薄い桃色。

顔を上げると、桜の花びらがどこかへ流れるように風に吹かれて運ばれている。

 夏なのに、桜?

 その光景を見て、沈んでいた心が浮き上がる。

私は好奇心に胸を膨らませて立ち上がり、今度は桜の花びらを追いかけて走った。

花びらは寂れた小さな神社の中に吸い込まれるように消えていき、私も迷わず灰色の鳥居を潜った。その瞬間――。


『わあ……っ』


 視界を占領する満開の桜。

目の前にあったはずの寂れた神社とは打って変わって、朱色の大きな神宮が現れる。気づけば、私は広い境内に立っていた。

 口を半開きにしたまま急に変わった景色に目を奪われていると、桜吹雪の中で佇む人が自分の他にもうひとりいることに気づく。