『人間、遅いぞ! もっと我を楽しませてみよ!』

『ふふっ、うん!』


 自然と笑みがこぼれる。この頃の私は、人よりもあやかしや神様と一緒にいるほうが自然体でいられるから楽だった。

誰にも必要とされなかった私の唯一の友達になってくれた彼らのことが人間よりも大好きだった。

 だって見えているものを見えないふりしなくてもいいし、普通でなくてもありのままの私を嫌な顔ひとつせず受け入れてくれるから。

 私も神様やあやかしだったらよかったのに。

 そんなふうに思っていると、ふと目の前から茶碗の付喪神がいなくなっているのに気づいた。


『あれ、どこに行っちゃったんだろう?』


 ついさっきまで、付喪神は私の数歩前を走っていたはずだった。

けれど、なんせすばしっこい。とうとう見失ってしまった私は、いつの間にか住宅街の裏にある森の中に迷い込んでいた。


『おーい、神様ー?』


 声をかけてみても、返事がない。

 これじゃあ、鬼ごっこじゃなくてかくれんぼだよ。

 後ろを振り返ってみても生い茂る木々が広がっているだけ。

無我夢中で付喪神を追いかけていたから、いつ森に入ったのかも帰り道も当然わからない。