「迎えに来るのが遅くなった」


 耳元で低い囁きが聞こえた。

私が目を見張ると同時に膝裏に腕を差し込まれて、そのまま横抱きにされる。

 視界に映る銀色の髪と昨日より柔らかに見える金色の瞳、舞う桜の花びら。
そのすべてが私を優しく包み込む。


「な……んで……」


 この人がここにいるの?

 私は朔を見上げながら、それ以上の言葉を紡げなかった。

 どこか、夢を見ているような気分だった。

私がつらいとき、差し伸べてくれる手や抱きしめてくれる温もりは今までなかったから。


「お前を嫌う人間の中に、無理やり居場所を作る意味はない」

「でも、私は人間だから。生きている以上は働かなきゃいけないし、嫌な人ともうまく付き合わなきゃいけな……」

「くだらんな」


 朔は私の言葉を遮った。