「あなたたちは、私の心を守ってくれた。だからお願い、怖がられるだけの存在にならないで。力を正しく使って、感謝されるようなあやかしになってほしい」


 人間と同じだ。あやかしにも悪いところがあれば、いいところもある。

なのに、ただ恐ろしい部分だけに目がいって、邪悪な存在みたいに勘違いされたままなのはもどかしい。

 その気持ちが伝わったのかどうかはわからないけれど、骸骨蜘蛛のあやかしはくるりと後ろを向いた。


「食われそうになったというのに、あやかしに心を寄せるとはナ。お前は変わってイル。それは魂ゆえか……」


 謎の呟きだけを残して、すっと空気に溶けるようにあやかしが消える。

 た、助かった?

 一難去ったのだとほっとしたら、全身の力が抜けた。私はその場に崩れ落ちるようにして座り込む。


「はあーっ、よかった」


 引いてくれなかったら、私は今頃あのあやかしの腹の中だ。

 やっぱり、あやかしは意地悪なだけじゃない。耳を傾けてくれたんだから。


 小さく笑っていると、「芦屋さん、誰と喋ってたんだ?」という声が聞こえて振り返る。

オフィスの入り口にいた社員たちが、ガラスの破片や飛び散った資料の上でひとり座り込んでいる私を奇異の目で見つめていた。


「やっぱり、あの人おかしいのよ」

「呪われてるんじゃないか?」

「気持ち悪っ、一緒の空間で仕事するなんて嫌だわ」


 突き刺さる視線と心を容赦なく切り刻む言葉たちに、自嘲的な笑みがこぼれる。

 私には神様やあやかしが見えます。さっきのも、あやかしの仕業です。

でも、話をしたら帰ってくれたので、もう大丈夫です……なんて。

さっきのあやかしみたいに、自分の気持ちをそのままこの人たちにも伝えたとして、わかってもらえるのだろうか。

 ううん、考えなくても答えは出てる。
きっと、変な人だと思われるのがオチだ。

だから現に、私は黙ったままなにも言い出せないでいる。


 あやかしのこと、どうこう言えないな。
理解されるために踏み出せない私のほうが、ずっとずっと弱い。


 唇を噛んで俯いていると、ふわっと背中があたたかくなった気がした。私が振り返るより先にお腹に腕が回り、頭に大きな手が乗る。