「ごめんね、私はやっぱり神様のお嫁さんになんてなれないよ。だって私は人間だし、朔の気持ちもわからないし」


 それだけ言って立ち去ろうとしたら、白くんは「大鳥居まで送るよ」と悲しげに笑ってついてきてくれた。

 他愛のない話をしながら、私たちは大きな橋を渡って広い境内にやってくる。

そのまままっすぐ歩いて、ようやく大鳥居に辿り着いた。


「雅様、雅様。朔様の心がわかれば桜月神社に嫁入りすること、考えてくれる?」

「どうして、そこまでするの? 朔、性格には問題ありそうだけど、黙ってたら結構カッコイイし、お嫁さんなんてすぐに来てくれるでしょ。私のことは諦めて、次のお嫁さん候補を探したほうが……」

「でも、朔様は雅様がいいんだと思う」


 白くんは強い言葉で遮った。


「朔様がそばにいてほしいと思う人のこと、僕も大切にしたい。だから、お願いだよ、雅様。さっきの話、考えてくれないかな?」


 さっきのって、朔の気持ちを知ってから嫁入りするかどうか考えてって話だよね。答えはもちろん『ごめんなさい』だけど、こんなに必死に頼まれちゃうと……。


「断言はできないけど、知らないうちは考えることすらできないから……そうだね、判断材料にはさせてもらうと思う」


 別れ際、朔のために心を尽くしている白くんを前に強く否定できなかった私は、曖昧な答えを返してしまうのだった。




 翌日、いつもと同じように出社した私はデスクに着いて頭上の電気を見上げる。

 すると、なんということだろう。

毎回いたずらを仕掛けてくる子鬼たちが私と目が合った瞬間に「強い神気だっ」「あのいけ好かない奉り神の嫁になったのか?」と口々に言いながらどこかへ散っていく。

 そういえば……。

 私は朔の言葉を思い出す。