「そうだ。大人になるにつれて、お前の魂の力が強まったからだ。身体の成熟と同様に、魂も成熟する」


 朔が私の思考に割り込むように補足する。

窓際を見れば、自然と朔と目が合って少しだけ胸がトクンッと音を立てた。

 顔がイケメンだからって結婚式を強行したこと、まだ許してないんだからね!

 心の中でときめいてしまった自分を律している間にも、朔は話を続ける。


「その魂の力は酒のようにあやかしや神を酔わせる。傲慢で欲深い者ほど理性を失い、お前をなんとしても食らおうとするだろう。そうでなくとも、その魂の持ち主はあやかしや神に好かれやすい」

「なんとしても食らおうとするって……思い当たる節がありすぎて怖いんだけど……。それに私、てっきりこの痣があやかしと神様を呼び寄せてるんだって思ってた。でも、違ったんだ……」


 左手の桜の痣を見つめて呟くと、朔のそばに控えていた黒さんがあからさまに顔を顰めた。


「お前の魂は同じ空間にいるだけで、俺たちにも力を与えている。あやかしにも神にも好かれるお前が野放しになっていると考えてもみろ」

「野放し……」


 そんな、動物みたいな言い方しなくても。

 げんなりしている私のことなんて関係なしに、黒さんは虫を見るような目でこちらを射竦める。


「普通なら今頃とっくにあやかしに食われているか、神に幽閉されているかのどちらかだ。なら、今まで無事だったのはなぜだ?」

「確かに……本当、なんでだろう」


 顎に手を当てて悩んでいると、朔がふうっとかすかに息を吐き出した。

それから私の手の甲に視線を向けて、「ん」と顎でしゃくる。


「その痣は、俺がお前に贈った祝福の印だ。神には厄を退ける力があるからな。ただ、それを贈ったのは昔だ。今は効果が薄れている」

「それって、私と朔は前にどこかで会ったことがあるってこと?」

「さあな。とにもかくにも、俺の嫁になれば他の神もあやかしも簡単には手を出せまい。お前にとってはいいこと尽くめだろう」


 さあなって……。

 当の本人は興味なさげに、また障子窓の外を眺めている。

 よくよく考えてみると、朔が私を強引に嫁にしようとしたのはこの奇跡の魂が目的だったからではないか。