「まだだ。話そうとしたら、当の本人が帰ると言い出してな。機を逃した」


 ――私のせいかいっ。元はといえば、朔が私を無理やり攫って、無理やり結婚させたからでしょうに。

 腹は立ったけれど、〝例の件〟というのが気になったのでこらえる。

 でも、私の不満に気づいていたのだろう。

ふんっとバカにしたように笑った朔が壁に背を預けたまま、私の方に身体を向けた。


「雅、お前は千年に一度現れる奇跡の魂の持ち主だ」


 ……はい?

 今、『今日の晩ご飯はカレーだよ』とでも報告するようにサラッと、重大なことを言われた気がする。


「ごめんなさい、バカな私にもわかるように説明してください」


 この件についてもいろいろ言ってやりたいことはあるけれど、自分に関わることなので下手に出た。

……のだが、朔は『面倒だ』という顔をして、ため息をつく。


「奇跡の魂というのは、食らえば強大な力を、契って生まれた子孫には繁栄をもたらすと言われている。ゆえに神もあやかしも、喉から手が出るほど欲しい存在。それがお前だ」


 怠そうではあったが、朔は説明してくれた。

けれども、あまりにも現実味のない話すぎて頭がフリーズしてしまう。

 すると、私に抱き着いていた白くんが顔を覗き込んできた。


「よく、あやかしに襲われたり、神隠しに遭ったりしなかった? それは雅様の特別な魂ゆえなんだよ」


 〝奇跡の魂〟なんて言われても、いまいちピンとこない。

ただ、確かに小さい頃から私の周りにはあやかしや神様がいた。


「そっか、神隠しにしょっちゅう遭ったり、あやかしに食べられそうになったり……。全部、その魂のせいだったんだ。あやかしも神様も昔は話せばわかってくれたのに、最近は私の意思関係なしに襲いかかってくるし……。それも、その奇跡の魂がなにか関係してるの?」


 なんでなのかはわからないけれど、話が通じるあやかしが格段に減った気がする。

神様に傷つけられることはなかったが、私に恩を売って神隠しに遭わせようとするあたり同罪だ。