『あの、これじゃダメかな?』


 さんま納豆ミックスなんて、味を想像しただけで「うげっ」と吐き気を催しそうだけれど、あやかしの口には合うかも。

 ダメ元で提案してみると、あやかしは食いついた。


『うむむ? なんだそれは』

『さんまと納豆が混ざった味?がするお菓子みたい。おいしいかどうかはわからないけど、これで私のことは諦めてくれる?』

『うー……いいだろう。今回だけだぞ!』


 あやかしはそうは言いながらも、口元が緩んでいる。結構、嬉しかったらしい。

 これまでも、私を『食べたい』と言うあやかしはたくさんいた。

 けれど、ちゃんと向き合って話せばわかってくれた。本当に恐ろしいのは、腹の内が見えない人間のほうだと私は思う。


『ありがとう』

 あやかしに笑顔を返しながら、お菓子の袋を開けていると、どこからかひそひそ話が聞こえてきた。

『あの子、またひとりで喋ってるわよ』

『ああ、気持ち悪い。病気なんじゃない?』


 あ……近所のおばさんたちだ。

 昔からあやかしや神様が見えた私は、友人や学校の先生、両親からも気味悪がられていた。

『……ごめんね、あやかしさん。私、そろそろ帰るね』


 胸の痛みが大きくなる前にと思い、立ち上がる。

そして、あやかしの返事を待たずに、近所のおばさんたちの視線から逃げるようにしてその場から立ち去った。

 とはいえ、家に帰ってきても居心地の悪さは拭えないのだけれど。