「白、そいつは仮にも朔様の嫁だ。迷惑をかけるな」


 仮にも……どこか棘がある言い方だな。

 私は苦笑いしながら、改めて白くんと同じ浅葱色の袴を身に着けた黒髪の狛犬さんを見上げる。

黒い耳と尻尾を持つ彼の額にもあの桜の痣があり、褐色の肌によく映えていた。

 瞳は白くんみたいにくりっとはしていないけれど、同じように澄んだ青色をしており、切れ長だ。

そして、その目でヤンキーのごとく私にメンチを切っている。

 怖い……そしてなぜ、こんなにも敵意を向けられているんだろう。


「そういう兄さんは愛嬌が足りないと思うな」

 頬を膨らませている白くんに、私は驚く。

「え、ふたりは兄弟なの?」

「俺は黒、白の兄だ。俺たちが兄弟だと、なにか問題が?」


 ギロッと睨んでくる黒さんに私は肩をすくめる。

 ああそうか。黒さんは私のことを朔の嫁だって認めてないんだ、きっと。

 でも、私は結婚を受け入れたわけじゃない。

誤解なんだけど、否定したらしたで朔様を愚弄するな!って怒りそうだ。

うん、火に油は注がないことにする。


「いいえ、なにも」

「だーかーら、兄さん怖いって!」


 黒さんの腕から抜け出した白くんは私のそばにやってくると、ひしっと抱き着いてきた。

 ――ああ、この神宮で唯一の癒し。